第25話 幸せを運ぶケーキ
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席に戻ると、美月は難しい顔をしながらメニューを見はじめた。
美夜はメニューをぼんやり見ながら、書店の青年を思い浮かべていた。
この間は、本を欲しい理由を訊いてきたのに、今回はなぜ、何も訊かなかったのだろうか。自分が一緒だったからだろうか、とも思ったが、レジを打っている時点では、美夜が先週の客だとは分かっていなそうだった。では、なぜだろうか。そう思っていると、不意に美月が呟いた。
「さっきの綺麗なお兄さんさあ」
美夜は顔を上げて美月を見る。
美月はメニューを見ながら「よく私たちが双子って、気が付いたよね」と言い、顔を上げた。
美夜は、あ、と思いながら「そうだね」と頷く。メニューを閉じると、店員を呼んだ。
二人はそれぞれの注文をすると、話しを再開した。
「似てるね、とか、姉妹?は、あるけど、双子って言う人、そんなに居ないじゃん」
好きな服装も、髪型も、話し方も似ていない二人は、顔もあまり似ていない。よく見れば似ているが、ぱっと見ただけで分かる人は、今まで居なかった。
「すごい観察力だよね。あんなに前髪長くて見づらそうなのに」
美月は水を一口飲むと、店内を見回した。人の笑い声や話し声に紛れ、ピアノの旋律が聴こえる。美夜が良く聴いてるサティの曲だ、と思っていると、女性店員が紅茶とケーキを運んできた。
「お待たせしました。アッサムとダージリン、チーズケーキとイチゴのムースリーヌです。ごゆっくりどうぞ」
運ばれたケーキは、前回のようにシャーベットは付いてはいなかったが、プレートには斜線状にソースがかかっており、シンプルな盛りつけがされていた。
「美味しそうだね」
美月はにっこり微笑むと、「いただきます」と、言ってチーズケーキを口に運んだ。
美夜もイチゴのムースを一口食べた。
ふんわりした舌触り、あっと言う間に口の中から消えるムース。酸味のあるソースが、さっぱりとした後味で、清涼感がある。
一口、口に運ぶだけで、幸せな気持ちになる。先ほどまで、東京に出てきたことを少し後悔していた自分が、嘘みたいにどこかに吹き飛んでいく。
幸せそうに微笑み、ケーキを口に運ぶ美夜を見て、美月はそっと微笑み、ケーキを食べた。
幸せな時間をじっくり堪能し、二人は席を立ちレジに向かった。店内は、いつの間にか奥様達以外、居なくなっていた。
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