第23話 美しい微笑み
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青年が本を袋に入れている間、美月はレジ近くに置いてある木製の小さな人形を手にとって「へえ、チェコの人形だ」と、囁くように言った。
その声は、青年の耳に届いていた様で、青年はちらりと美月を見ると、何かを考えるかのように、一瞬、動きを止めた。そして、美月の後ろでハラハラしながら様子を覗っていた美夜を一瞥し、一人何かを理解したように小さく何度か頷いた。
「お待たせしました」
そう言うと、美月に商品を手渡し、再び美夜を見た。
美夜はぴくりと身体を動かし、青年を見返す。
青年はじっと美夜を見て、また美月を見る。再び、美夜を見て口を開いた。
「この間のお客さんだよね?双子?」
美夜は首を縦に動かし、二度頷いた。その様子を、二人の間に立っていた美月は、首を左右に動かし、不思議そうに何度も美夜と青年を見比べている。
「上のカフェ、行った?」
その言葉に、美夜は何度も頷いた。まるで、頷き人形のようだ。そして、なぜか吃りながら
「おおお、美味しかったです。す、凄く」
心臓が早く鼓動を打ち付け、興奮してきた。美夜は顔を真っ赤にしながら続ける。
「ち、チーズケーキ食べました。テイクアウトでも買いました。とても、気に入ったので。また食べたくて、また来ました!」
美夜が言い切った、とでも言うように息を一つ吐き出すと、青年は小さく微笑み、名刺サイズの紙を差し出した。
「本当は、本買った人しか渡せないんだけど。良かったら、またどうぞ」
美月がその紙を受け取り、じっと紙に書かれていることを読んだ。
「すごい、太っ腹だな。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。ケーキ、また楽しんでいって」
美夜は美月の手元に紙が二枚あることに気がつき、慌てて一枚を青年に返した。青年は、少々驚いた様子で、美夜が突き返して来たカードを見つめる。
「いただけません。私、今日は本買っていないし、今日はちゃんとお金払って食べます。そうしたいんです。そうしたいほど、美味しいと感じたんです。でも、あの、ご厚意はありがとうございます」
言い終えると、美夜は勢いよく頭を下げた。
青年は微かに目を見開いたが、小さく顎を引き、美夜から紙を受け取った。美夜が顔を上げると、青年は先日、美夜に見せた輝く笑顔を見せ、「ありがとうございました」と言った。
流石の美月も、その美しい微笑みに目を奪われたのか、動きが止まった。
「お兄さん、きれ……」
「美月、行こう」
美夜は急いで美月の腕を引っ張り、店を出て行った。
店を出ると、美月は興奮したように、「今のお兄さん、超きれいだったよね。さすが、東京」と、先を歩く美夜の背中に向かって言ったが、美夜は黙ったまま先を歩き、早鐘を打つ胸を押さえた。
二人は階段を上がり、二階にあるカフェへ向かった。
ドアを開けると、呼び鈴が店内に響き、元気の良い女性の声が美夜達を迎えてくれた。




