第22話 不思議な本屋
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
二人は商店街を抜け、その先にある、白い建物に目を向けた。
「あそこ?」
美月は建物眺めながら訊いてきた。
美夜が返事をすると、「別世界な」と、囁くように言った。
確かにその通りだった。一週間前に来たときも、同じような感覚があった。そこだけ光が差すように眩しく、別世界へ向かう入り口のように感じたのだ。
美月は建物に吸い寄せられるように足を進めた。美夜が初めて来た時と同じ感覚を、美月も感じているようだ。
美夜は美月の後に続くように、建物に向かって歩き出した。
「この前の本、ここで買ったの。見てみる?」
美夜がそう言うと、美月は上の空で頷いた。
書店内は、相変わらず客はおらず、レジカウンターにも人がいない。なんとも不用心だな、と思いながらも、本をゆっくり見ることが出来るのは嬉しかった。
美月はアートコーナーを目敏く見つけると、中二階へ上がっていった。
美夜は下の階で、子供部屋のインテリアの本を手に取り見ていた。
暫くして、「いらっしゃいませ」と言う声が聞こえた。
美夜がレジカウンターをちらりと見ると、先日、接客をしてくれた変わり者の美青年が立っていた。
美青年は美夜を一瞥すると、小さく頭を下げた。顔の表情は、前回同様、長い前髪に隠れて見えないが、この間、帰り際に見せてくれた笑顔ではないことは確かだった。
美夜は小さく会釈をすると、再び本に目を移す。
暫くそうしていると、美月が一冊の本を手に持って美夜の隣に立った。
「美夜、見てよ。ゾーヴァの絵本、見つけた。ここ、変わってる本屋だね。インテリアとかアートの本しかないかと思ったら、探せば色々あるんだ。すごい、宝の山って感じ」
美月は心なしか鼻息を荒くして言った。その声は、押さえているつもりだろうが、静かな店内に柔らかく響く。恐らく、青年の耳にも届いているはずだ。
「これ、買ってくる」
美月は本を大事そうに抱えてレジに向かった。
美夜はなぜか不安に思い、すぐに後を着いていく。
「これください」
美月は青年に本を差し出した。
青年は美月をちらりと見ると、レジに鍵を挿し、黙って値段を打ち込んだ。
「千二百六十円です」
低い、静かな声が響いた。
美月は鞄から財布と取り出すと、二千円をトレーの上に乗せた。青年は金額を打ち込み「七百四十円のお返し」と囁くように言い、釣り銭を渡した。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
同時進行でミステリー系ヒューマンドラマ
『Memory lane 記憶の旅』更新中!
https://book1.adouzi.eu.org/n7278hv/
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




