第199話 里々衣の一人語り
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
現在・里々衣 十八歳 大学一年生
私には、お母さんが二人いる。
一人は、私が一歳になるときに、事故で死んじゃったお母さん。もう一人は、私が五歳の時、Lisで初めて会ったときから大好きだった女性客。
五歳の頃の記憶なんて、殆ど忘れてしまった。でも、お母さんと出会った時の事と、お母さんが私の「お母さん」になるって知ったときの事は、ものすごく良く覚えている。
初めてお母さんと会ったとき、お母さんは髪をショートカットにして、ジーンズを履いていた。
Lisの一番奥の席で、静かに絵を描いていて。その横顔が、あまりにも綺麗で見とれていた私に、お母さんは気が付いた。とっても優しい、暖かい笑顔で、私に微笑んでくれたの。
その時、不思議な事が一つだけあった。耳の奥で、誰かが「里々衣、彼女があなたを守ってくれる」って、声が聞こえた気がした。
今思えば、あれは死んじゃったお母さんが、私に教えてくれたんじゃないのかなって、思う。
死んじゃったお母さんの事は、写真を見て知っている。お父さんの話しも聞いていて、とっても素敵な人だったんだって思った。だから、私は死んじゃったお母さんも大好きだ。
でも、今のお母さんはもっと好き。
たまに喧嘩もするけど、それでも、お父さんの再婚相手がこの人で良かったと思える。
そこは、五歳の頃の自分に大感謝している。だって、お父さんのお見合いを駄目にしたんだから。よくやった、里々衣と、みんなに誉めてもらいたいぐらい。
それに、私とお母さんは、【同じ血】が流れている。
昔、お母さんが通り魔に襲われた事があった。出血が酷く、瀕死だったのを、お父さんと美夜ちゃんが血液の提供をした。
だから、今のお母さんの身体の中には、ちゃんと私と同じ、お父さんの血が流れている。
お母さんは、その事実を、ずっと知らなかった。
知ったのは、私と大喧嘩して、お母さんが落ち込んだとき。
お母さんはお父さんに「自分達は血の繋がりがないから、分かり合いたくても、分かり合えない部分があるのか」と、愚痴を溢したことがあった。らしい。
お母さんが泣いたその日の夜、お父さんは夕食後、「重大発表があります」と、選手宣誓のように手を挙げて、お母さんの血液提供者だったことを発表した。
お母さんも私も、涙を流して喜んだ。
その時、ちょっとだけ、お父さんが格好良く見えたし、ほんの少し、好きになった。
「じゃあ、行ってきまあす」
「あ、里々衣、待って!これ、ポストに出してきてくれる?」
お母さんが差し出した手紙を受け取り、私は靴を履いた。
「ねえ、里々衣。私の記憶が確かなら、今日はデートって言ってたわよね?」
「うん、そうだけど?」
お母さんは私の格好を、上から下を眺め、眉間に皺を寄せた。
「デートなら、もっと可愛い格好して行きなさいよ」
私は、自分の格好を見下ろす。大好きなバンドのツアーTシャツに、細身のブルージーンズ、白のスニーカー。
「なんで?お母さんだって、昔こういう格好してたじゃない」
お母さんは何も言い返せないかのように一瞬絶句し、それでもすぐに言い返してきた。
「あの時とは時代が違うのよ。せっかく可愛いのに、なんでそういうがさつな感じが好きなの?振られちゃうわよ?」
「別に、この格好を見て振られるならそれでも良いわ。私は、本当の私を見てくれる人とじゃなきゃ、付き合っていきたいと思わないもの」
「正しく、里々衣の言うとおり!」
リビングからお父さんが顔を出し、満面な笑みで言った。
「どんどん、がさつな格好をして、どんどん振られてこい」
「あ、なあんか、ムカってきた」
私はあからさまに嫌な顔をしてお父さんを見た。
子供の頃、私はお父さんが大好きで、お嫁さんになると言っていたらしい。そんなこと、私の記憶からは、とうの昔に抹消されている。
「お父さんがそう言うなら、着替えてこようかな」
私は靴を脱いで、階段を上ろうとした。
「何だか、反抗期?」
お父さんは玄関口に来て、寂しそうな顔で言ってきた。私は舌を出して「まあね」と言って、部屋へ戻った。
着替えを済ませ、再び階段を降りていくと、お母さんは私が大好きな笑顔を見せて「最高に可愛い」と言った。お父さんは下唇を突き出し、「ああ」と呻き声を上げた。
「じゃあ、行ってくるね」
「気をつけてね。ああ、里々衣!今夜、美夜とコウ君が来るから、早く帰ってきてね」
お母さんは嬉しそうに私の叔母である、お母さんの双子の妹の名前と、お父さんの弟である、私の叔父の名前を挙げた。
「え?コウちゃん達、帰ってきたの?」
「コウおじさん、だろ?」お父さんが訂正をする。お母さんが笑いながら「そう、トロフィー持ってきますよ」と微笑んだ。
「え!じゃあ、優勝したの!?分かった!絶対早く帰ってくるから!」
私は浮き足だって外へ飛び出した。大好きな美夜ちゃんとコウちゃんに会えると思うと、デートなんて、どうでも良くなったてきた。
二人の作るお菓子は、全てが美味しい。どのくらい美味しいかって言うと、嫌なことがあっても、二人のお菓子を食べたら、嫌なこと全部吹き飛んで、食べた瞬間から元気になっちゃう。そのくらい、美味しい。
コンビニで売っている他のお菓子も好きだけど、二人の作るお菓子は、特別。
どこへ行っても味わえない、最っ高に幸せな味がする。
その二人が作ったお菓子が、世界で認められた!
今日は何て素敵な日だろう。早く夜が来ればいいのに。
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