第198話 幸せな口付け
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短い沈黙の後、美月が口を開いた。
「……奥さんと、重ねてみてたんじゃないの……」
栄は顔を上げ、美月を見た。その顔は、涙を拭おうとせず、目を見開いていた。美月は人形のように感情のない顔で、真っ直ぐ栄を見つめる。
「私は、奥さんじゃない……」
そう言うと、人形のような表情が微かに歪んだ。栄は椅子から立ち上がると、美月の頭を引き寄せ抱きしめた。
「重ねてない。美月は、美月だ」
栄の声は、震えていなかった。力強く、優しかった。
美月はその声を聞き、顔を歪め涙を流し、栄の腕にそっと触れた。
「あの時、ハルの声、聞いてなかったら、ダメだった……。美夜でもなくて、恭兄でもなくて、親でもない。ハルの声だったから……」
「うん」
栄は抱きしめる腕に力が入った。あまり力を入れてはいけないと分かっていながらも、自然に力が入ってしまった。
それでも、美月は痛がらず、栄の腕の服をぎゅっと掴んだ。
「死んじゃうのかなって、思った……。死にたくないって、もっとハルと話したいって、おもっ……」
「うん」
栄は美月の頭にキスをした。
「これから、たくさん話をしよう」
「ケンカになるかも」
美月は笑い泣きしながら言った。栄は小さく笑うと、「喧嘩も、たくさんしよう」と言った。
「ハル」
「ん?」
「ありがとう」
「うん」
「ハル」
「ん?」
「今度は、私がハルを助けるよ。ハルを暗闇から、明るい方へ、手を引いてあげる。いくらでも時間をかけて……」
栄は美月から離れると、美月の頬に優しく触れる。美月は目を瞑り、その手を愛おしそうに自分の頬に押し当てた。
「愛してるよ、美月」
美月はそっと目を開き、微笑んだ。優しい、女性らしい微笑み。
栄はその微笑みに吸い寄せられるように口付けをした。
優しく、温かい、幸せな口付けを。
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