第197話 愛すること
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栄が病室に入ると、母親が気を利かせて席を外してくれた。
「調子はどう?」
栄は持ってきた土産を美月に手渡しながら訊ねる。
美月は渡された袋の中身を見て、栄を軽く睨み付けた。袋の中に入っていたのは「オセロ必勝法」というタイトルの本。
栄はおどけた顔で笑って見せ、美月もその顔を見て笑った。
「すごい回復力だって。野生動物並み」
「うるさいなあ。そんなこと言いに毎日来るな。仕事しなよ、仕事」
その返事を聞いて、栄は苦笑しながら「ホント、お口の方もすごい回復力」と言った。
美月ははにかみながら、窓の外に目を向けた。夕日が室内に入り込んで、全ての風景がオレンジ色に見えた。
二人は黙って窓の外に見えるオレンジ色の空を眺めていた。
不意に、美月が「はは」と声を上げて笑った。
「なに?」
栄は穏やかな顔で美月を見つめる。美月は窓の外に目を向けたまま「今、美夜がどこかで笑った」と言った。
「すごいな、そんな事わかるんだ?」
「双子の神秘です」
栄はその答えに微笑んだ。
「お前が、命がけで取り戻した笑顔だ」
「……」
「生きててくれて、ありがとう」
美月は振り向いて栄を見つめる。栄は優しく微笑み、オレンジ色の世界に、栄も溶け込んでいた。
美月は黙ったまま栄の顔を見続けた。栄は美月から目を逸らし、組んでいた自分の手を見つめた。
「俺は、一生、誰かを愛することはないって、本気で思っていたんだ……」
「……」
「でも、美月が襲われて、血を流しているのを見て、自分の中で抑えていた感情が、溢れ出したのが分かった」
それから栄は口を閉ざした。美月は何も言わず、真剣な眼差しで栄の言葉を待つ。
「美月を、死なせたくないと思った。愛する者を失いたくなかった」
栄の声は、震えていた。目を閉じて、何かを祈るように両手を力強く握り合わせる。
その姿は、まるで夕暮れ色に染まった病室に紛れ込むかのような、静かな佇まいだった。
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