第195話 まだ、好きなの?
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美夜と光は、久しぶりに緑が丘公園へ来ていた。
もうすぐ、空一面に茜色の光が溢れる時刻だ。
光は自分の隣で美夜が話しをする様子を、目を細めて聞いていた。
「それで、美月ったら、お兄ちゃんにちっとも勝てなくて、六回目も負けそうになって、そしたらオセロ板をひっくり返してバラバラにしちゃったの」
美月が一般病棟に移動してから、一週間が過ぎた。美月は普段の運動が効いていたのか、驚異的な回復力を見せていた。
「栄さんが来た途端、大人しくなっちゃって。もう、お母さんと大笑い。お父さんとお兄ちゃんなんて、命の恩人だから複雑な感じで。私に、二人はどういう関係なんだ?とか、探り入れてきて。それが余計、可笑しくて」
美月の意識が戻ってからというもの、栄は毎日、美月の顔を見に行っていた。
光は、美夜が栄の名前を出すと、ちらりと美夜の横顔を見た。美夜は楽しそうに話を進めている。
「ねえ」
光はベンチに寄りかかっていた身体を起こす。少し身体を美夜に向け、真っ直ぐに見つめる。
「はい?」
美夜は笑顔で振り向いた。
光の真面目な顔を見て、徐々に笑顔が薄れていく。不思議そうに首を傾げる美夜に、光は真剣な顔を崩さなかった。
「まだ栄のこと、好きなの?」
光は目を逸らさず、真正面から訊いてきた。
美夜は「え」と、驚いた顔で光を見た。
「前、栄を好きだったしょう?まだ、好きなの?」
光は自分が何を言い出しているのかと、自身に苛々しながらも、口が止まらなかった。
「知ってたんですね……」
美夜は光から目を逸らした。
光は小さく息を吐くと「分かりやすいから、中西は」と言った。
「中西」
美夜は下を向いてしまい、光から顔を逸らしていた。
「こっち見て」
光は美夜の手を取る。
美夜は顔を上げ、戸惑った顔で光を見つめた。暫くして、小さく微笑むと、首を横に振った。
「栄さんのことは、確かに今でも好きだけど、でも、以前とは全く違う意味で好きです」
「どういう?」
すかさず光は質問した。美夜の心の奥を見るかのような、真っ直ぐな瞳。
美夜は困ったような顔で微笑んでから、「つまり」と言った。
「恩人として。かな。でも、今思えば、以前も、恋愛の【好き】とは異なっていたんです。……憧れていたんです。憧れの【好き】だったって、今なら分かる」
「……」
「私、美月と兄が一緒にいる姿を見ているのが、とても好きでした。でも、私はその中には入れない。私、きっと心のどこかで、兄という存在を、ずっと憧れていたんです。それが、たまたまリンクしたのが、栄さんだった」
光は美夜の手を離すと、再びベンチに寄りかかり空を見上げた。
「そうか……」と独り言の様に呟く。
空は、だいぶ茜色が広がっていた。
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