表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/201

第193話 父親の思い(3)

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 政近が顔を上げ、栄を真っ直ぐ見つめた。微かに充血した瞳には、薄っすらと涙が浮かんで見えた。


「栄」


「……はい」


「お前は、俺のようになるな……」


「父さん……」


 政近は小さく笑うと、すぐに真顔になった。


「私は後悔はしていない。だが、先代の味が好きだったのは、本当だ」


 栄は目を瞑り、ゆっくり頷いた。

 静まり返った部屋の空気は、重苦しくはなく、嫌な物ではなかった。


 初めて、父親を凄い人だ、と思った。


 変化は大事なことだ。しかし、それを実行に移す事は、口で言うほど簡単なものではない。とても難しい事だ。心念という一本の棒は、何かあれば徐々に細くなり、いとも簡単に折れてしまう。その太さを維持するには、重圧と戦い続けなければいけない。それを、やり遂げた父は、どんな事であろうと、賞賛に値する物だと思った。父親という人を、やっと理解できた。そんな気がした。


「栄」


「はい」


「光と、ケーキ屋をやるんだろ?」


 その言葉に、僅かに驚きながら「はい……」と応える栄を見て、政近は眉間に皺を寄せる。


「資金はどうするんだ?」


「……俺の貯金で半分くらい、後は、会長が貸してくれるというので……」


 政近は口角をあげて、小さく声を立て笑った。


「義母さんは、貸すんじゃなく、あげると言い出すだろ。きっと、借用書は書いてくれない。そうしたら、贈与税がかかって、お前達が大変になるだろう。有限会社にして、出資者になって貰いなさい。それなら、義母さんも納得するだろう。義母さんが駄目なら、私が協力をする。まあ、光が納得するか分からないから、その辺は、二人でよく話し合いなさい」


「……はい、ありがとうございます」


「会社組織になるのが嫌なら、個人事業になるが、双方のメリット、デメリットをよく考えて、どうするか決めなさい」


「はい」


「何かあったら、連絡しなさい。いつでも相談に乗る。私たちは、家族なんだから」


 初めて政近から、家族らしい言葉を聞いた気がした。栄は、喉の奥が詰まる様な感覚と、鼻の奥が微かに痛む感覚に、戸惑いつつ返事をした。


「それから、これは、保留にしておく。お前達の店が出来るまで、ここで働きなさい」


 そう言って、栄が書いた辞表を手に取った。


「……ありがとう、父さん」





 本社を出て、栄は空を見上げた。


 ビルの隙間から見える空は、どこまでも青く、眩しかった。

 ぽっかり空いた心の空洞が、ごく僅かではあるが、何かで少しずつ埋まっていくような気がした。それが何なのか、今は分からないが、いつかその隙間が埋まったとき、自分の中の時計は動き出すだろうか。今はまだ、後ろを振り向いて、百合の面影ばかりを追いかけている自分でも、前を向いて歩ける日が来るだろうか。そんなことを思いながら、一歩ずつ、ゆっくりと歩き始めた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ兄弟だけでなく、父親との関係が改善して行ったり、いい感じですね!
2023/01/25 00:08 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ