第189話 決意
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祖母のルイーズと会話してから、数日が経った。
栄は朝早く起きると、光に電話を掛けた。
フランスの時刻は夜九時頃だろうと、思いながらコール音を聞く。五回目のコールで、光の声が聞こえた。
「俺だ」
『ハル兄』
光は静かな声で話しをした。約二ヶ月ぶりに聞く光の声は、遠すぎるくらい小さい声で、栄は受話器を強く耳に押し当てた。
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二ヶ月前、光は百合の葬儀の為、一時帰国をしていた。光が帰国をする前日の夜、光は酒を飲みに行こうと栄を誘った。里々衣の面倒を見に、百合の姉の雪が来ていて、躊躇している栄の背中を押し、「いってらっしゃい」と、促した。
栄は光と共にバーに行くと、席に着くなり、光は決意をしたような真剣な顔で栄を真っ直ぐに見据えた。
「俺、もう引き上げるよ。日本に帰ってくる」
栄は何を言ってるんだと言ったが、光は首を横に振った。
「俺、百合さんが言っていた店を、作ろうと思う。俺ね、今日、昔じいちゃんが店を出してた商店街に行ってきたんだ。商店街内は空きがなかったけど、商店街を少し離れたところに、売り出し中の土地があった。そこで、店を出来ないかなと思うんだ」
「お前……店出すって言ったって、先立つものはあるのか?あそこは、都内から外れてはいるけど、ベットタウンになってるから、それなりの値段だぞ?」
光は小さく頷くと、「銀行から借りたりしようかと思うんだ」と言った。栄はその意見に呆れた声を出した。
「あのなあ、銀行だってそう簡単に貸してはくれないぞ。個人事業となると、実績を積むまで信用がない。そう簡単に融資は受けられない。それより、まず開業計画を書いて、事業計画書を十年分くらい書いてだな……」
「それくらい、知ってるよ。もう、考えてある」
光はジーンズのポケットから小さく折りたたんだ紙を取り出した。
幾分、ボロボロになった紙を広げ、「確認して欲しいんだ。これで良かったら、ちゃんと書き直す」と言って、開業計画書、事業計画書、資金計画書を栄に差し出した。
その計画書は、初めて書いたにしては、どれも良く書けていた。栄は驚きつつ、計画書を読む。
「これ、いつから考えてた……?」
栄は紙を捲りながら聞いた。
「考えていたのは、百合さんに話しを聞いた日から。決意したのは葬式の最中。別れ際に、心の中で百合さんに約束をしたんだ。絶対、店を出すって。そこで、菓子を作り続けるって……」
光はビールを一口飲むと、「ハル兄、店を作ろう」と、力強く言った。
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