第18話 提案
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『Memory lane 記憶の旅』更新中!
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「コウちゃん」
沖田光は箒を履く手を止め、振り向いた。
「おかえり、里々衣」
「ただいま。コウちゃん、きょうもいいこでしたか?」
里々衣はパタパタと走り寄り、光の足に抱きつくと、一丁前な口を利いた。
光は優しく微笑むと、里々衣の目線にしゃがむ。
「うん。良い子だったと思うよ」
そう言いながら、里々衣の頭を撫でた。栄に似た焦げ茶色の髪は柔らかく、毛先にかかった天然カールが、くるりとなり、口の中に入った。
光は里々衣の口に入った数本の髪を指で退かしながら、優しい声色で質問をする。
「里々衣は?保育園で、良い子にできた?」
「りりー、いつもいいこだよ」
里々衣が胸を張って答えると、光はその誇らしげな顔に吹き出しそうになる。
「そうだったね」
と、里々衣の頭を撫で、ゆっくり立ち上がる。
「お店綺麗にするの、手伝ってくれる?」
光がそう訊ねると、里々衣は嬉しそうに笑みを浮かべ、元気よく「うん」と返事をした。
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「ねえ、さっきの話しだけど」
雪は唐突に話し出した。声がワントーン低くなっている事に気がつき、栄は光の事ではないな、と分かったが、敢えて「ん?どの話し?」と惚ける。
「里々衣の事よ。百合が亡くなって、今年で五年。いい加減、百合だって許してくれるわよ。あなた、頑張ってるもの。里々衣の為にも、再婚したら?今後、男手一つでは終えなくなる。女の子特有の問題だって出てくる。それに、今現在、里々衣が母親のことで何か言われているなら、小学校へ上がったときは、それこそ大変よ?」
雪は栄の横顔を見ながら、真剣に言った。栄は食器を片付けながら、黙って聞いている。その横顔は、先程の穏やかさは消え、無表情だ。
「今度、勝俊さんの職場に、いい人が居ないか聞いてみるから。里々衣も含めて、五人で食事に行ってみない?」
雪は自分の旦那である勝俊の名前を出した。
栄は食器を棚に仕舞いながら、もうセッティングしてあるな、この言い回しは、と、半ば呆れながら心の中で舌打ちをする。
義理の姉である雪の言動は、自分の妻と居るより長い時間を一緒に過ごしているだけあってか、すぐに分かった。嬉しそうに話をする時も、本当に驚いている時も、親身になって話している時も、嘘を言っている時も、全て聞き分けることが出来る。その度、栄は自分の妻を思い出した。妻である百合は、いつも真っ直ぐで、嘘が無く、嫌みを言っていても、どこか憎めない言い方をした。喧嘩をして怒鳴りあった時さえ、彼女の啖呵を聞くと、清々しさすら感じた。
その妻も、今は居ない。五年前、里々衣が間もなく一歳になるという年に、通り魔事件に巻き込まれ、他界した。
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