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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

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188/201

第187話 ばあちゃん

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 四十九日を過ぎ、栄は会長室のドアの前に立っていた。


 そっとノックをする。


 部屋の中から、「どうぞ」と言う声が聞こえ、ドアを押し開けた。

 会長である祖母、ルイーズが、優しい笑みで栄を迎え入れる。七十過ぎにはとても見えない、艶やかな白い肌、真っ白の髪を上品に纏め、背筋を真っ直ぐ伸ばし、内面から出る気品が、全身を包み込んでいる。

 ルイーズは椅子から立ち上がると、栄に近づいた。

 栄は祖母の側に近寄ると、中腰になり、祖母が伸ばした両手に、顔を近づけた。

 祖母の柔らかく、皺だらけの温かい両手に両頬を挟まれ、静かに目を閉じた。祖母の優しい手の温もりが、栄の心の冷えを温めるようだった。


「少し、痩せましたね」


 祖母は、静かな声で言った。

 栄は瞼をゆっくり開け、小さく微笑んだ。

 二人は向かい合わせに座ると、ルイーズは栄が話しを始めるのを、じっと待った。

 栄はスーツのポケットから徐に、何かを取り出し、それをルイーズに差し出した。

 ルイーズは差し出された水色の封筒を受け取ると、栄の顔を見た。


「……カッセルさんから、預かっていた手紙です……。渡すのが遅くなって、すみません」


 栄は静かに言った。ルイーズは小さく頷くと「ありがとう」と礼を言った。


「コウは、カッセルさんの所で、十八から修行をしています……」


 栄がそう言うと、ルイーズはにっこり微笑み「ええ、知っています」と答えた。


「コウがフランスへ行く前、オーバンから連絡がありました。今度、フーゴの孫を預かることになったと」


 それを聞いた栄は、僅かに目を見開き祖母を見つめた。ルイーズは「ふふ」と笑うと、「コウは、私がお喋りだから、みんなにばらされると思ったのでしょうね」と言った。光の考えていることは、お見通しだったようだな、と栄は思った。


 祖母の笑い顔は、カッセル氏の言う通り、光の笑顔によく似ていた。そこにだけ、光が指すように明るくなった。

 栄は力なくそっと笑うと。視線を降ろした。


「会長……。いや……。ばあちゃん」


「なんですか。ハル」


 ルイーズは優しく返事をした。


 栄は目を瞑り、小さく息を吸い込むと、顔を上げた。


「俺……この会社を辞めても、構わないかな?」 


 その言葉に、ルイーズは驚く素振りも見せず、そっと微笑んだ。


「何か、遣りたいことがあるのですか?」


 栄は小さく頷いた。


「光と、店を作りたいんだ……。昔、じいちゃんの店があった土地で。小さな店を」


 ルイーズは短く息を吐き出すと「そうですか」と言った。


「でも、あなたには、まだ一歳になったばかりのリリイがいるでしょう。養育費など考えたら、今のまま働いていこうとは、思わないのですか?」


 ルイーズの意見は的を射ていた。それでも、栄は自分の意見を変えようとはしなかった。


「確かに、金銭的な事を考えれば、ここにいた方が良い事だと思います。……でも、店を作る事は、百合の願いでもありました。里々衣は、百合が唯一、僕たちに残した、店の案を元にした場所で、育てていきたいんです」


「それは、あなたのエゴでは無いんですか?百合さんのご家族は、あなたに将来性があるから、リリイの引き取りを快く承諾してくれたのでしょう?」


「……そうかもしれません。でも……それでも、俺は考えを変えるつもりはないんです。……ごめんなさい」


 ルイーズは深く長い溜め息をつくと、「エリサそっくり」と、栄達の母親の名を出し、小さく笑った。


「あなたが、そうしたいのであれば、それも良いでしょう」


 栄はじっと祖母を見つめた。不安そうな、泣きそうな、子供のような表情で自分を見る栄に、ルイーズは手を伸ばした。

 前屈みに座る栄の両頬を、テーブル越しに優しく包み込む。


「大丈夫。何も心配する事なんてありませんよ」そう言うと、「さあ、泣かないで」と、栄の頬を優しく撫でた。

 溢れ出した涙は止めどなく流れ、栄の頬を濡らす。


「ごめんなさい……」


 呻くように言う栄の言葉に、ルイーズは立ち上がり「なぜ謝るの?」と言って、栄の隣りに腰を下ろした。


 ルイーズは栄の大きな背中に手を回すと、優しく撫ではじめた。

 栄は子供のように祖母に縋り付き、声を堪え泣いた。ルイーズは子供をあやすように優しく背中を叩き、何度も「大丈夫ですよ」と囁いた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 百合、客死でしたか…そして父親とは相性が悪くとも、おばあさんが話ができる人だったのは救いかもしれませんね…。こうやってお店ができて、ある程度回して行ったのですね…。
2023/01/21 23:59 退会済み
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