第185話 雨
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七時を過ぎても、百合は帰ってこなかった。
「ハル兄、百合さん遅すぎない?おかしいよ、何の連絡もないなんて……」
栄は揚げ上がった天ぷらを取り出しながら「そうだな」と、心配げに返事をした。
「俺、ちょっとその辺、見てくるよ」と光が言うと、栄は火を止め「ちょっと待て、俺も行く」と言い、二人は一緒に部屋を出た。
さっきまで良い天気だった空は、厚く黒い雲が集まりだし、周りが暗く見える。
何だか妙な胸騒ぎがした。栄は光と共に足早にスーパーへ向かった。
スーパーに着くと、店はもう閉まっていおり、二人は辺りを見ながら道を引き返した。
光が働いているパティスリーの前を通ると、「ちょっと、店に寄って訊いてみる」と言って、光は昼間入っていった裏口に回り、店の中に入った。
厨房にはニルスとジョエル、ミシェル氏の三人が居た。三人は光を見ると、驚いた顔で「どうした?」と訊いてきた。
光は百合が帰って来ない事を伝えると、ニルスが表情を曇らせた。
「最近、この付近に変質者が出たって、ジュリエッタが言ってた……」
ニルスは恋人から聞いた話しを、光と栄に聞かせ、二人は顔を曇らせ見合わせた。
「俺はレジに居たが、閉店前に東洋人の客は来なかったよ」とジョエルが心配そうな表情で言う。
「僕たちも、探してみるよ。ユリの写真、ある?」と、ニルスが言うと、ジョエルもミシェル氏も、栄の側に寄った。三人は栄の手元にある百合の写真を見ると、背丈や服装を訊ねる。ミシェル氏は昼間と同じ、冷たい表情をしつつも「念のため、知り合いの警察官にも連絡をしてみる」と言ってくれた。
栄は礼を言うと、念のため写真をミシェル氏に手渡した。
二人は店を出て、昨日、栄と百合が歩いた思い出の地巡りを思い出しながら、あちこちを探し回った。
光は和食屋のオーナーに電話をし、百合が来たら連絡をくれるように頼んだ。そして、何人かの友達にも、電話を掛け、背格好や特徴を伝え、見かけたら連絡をくれと頼んだ。
海外の人間から見たら、東洋人はみんな一様に同じに見えるようだが、それでも光の友達は皆、快く了解をしてくれ、わざわざ光の元へ駆けつけてくれた者まで居た。
栄は光と共に歩きながら、この町にしっかり馴染んでいる弟を誇らしく思った。
「良い友達が多いな」と言うと、光は小さく微笑んで「俺は日本人ぽくないらしい。東洋人であるのは確かなんだけど、何か違うって思って、声掛けて来る人が多いんだ」と言った。
その中で、自分とフィーリングあった人物と友達になると、みんな良い奴ばかりだったのだ、と笑った。栄は「類友だな。お前が良い奴だからだ」と、弟の頭を軽く叩いた。
当てもなく探していると、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
「降ってきたな」
栄は空を見上げ、呟いた。
「ハル兄、一度どっちか家に戻ろう。もしかしたら、百合さん、帰ってるかも知れないし」
光の言葉に栄は同意した。栄が戻ることにし、百合が戻っていようがいまいが、光の携帯電話に連絡をすることになった。
「百合さんが昼間会った友達って、ハル兄は知らないの?連絡先が分かったら、電話してみた方が良い。家の電話使っていいから」
「わかった。ありがとう」
光の言葉に頷くと、栄は走ってアパルトマンへ戻った。
雨の粒は次第に大きくなり、アパルトマンに着いた頃には痛いくらいの雨が降り出した。
栄は階段を駆け上りながら、百合が居ることを祈った。しかし、玄関の前には誰もおらず、栄は鍵を開けて部屋の中に入った。
百合の荷物を漁り、手帳がないか探した。しかし、手帳は百合が持って行った鞄の中に入っているようで、どこにもなかった。
栄はひとまず光に電話を掛け、百合が戻っていないことを伝えた。光はわかった、と言うと電話を切った。
「どこ行ったんだ……」
栄は半ば苛々しながら再び部屋を飛び出した。
外の雨は益々激しくなり、辺りは真っ暗になっていた。
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