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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

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第183話 理想のカフェ

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 最初に感想を述べて以降、じっくり味わう様に黙ってチーズケーキを食べていた百合は、突然立ち上がり手を真っ直ぐ挙げた。それはまるで、何かを宣言するかのように。


「やっぱり!もったいないよ!」


 栄は笑いながら「なにが?」と訊く。


「ねえ、栄君。昨日の晩、私が話したこと、本気で考えてみない?」


 栄はケーキを食べる手を止め、百合を見上げた。


「昨日の晩?」と、光は首をかしげる。


「もったいないよ。この味は、コウ君しか出せない味だよ。会社に渡したとして、この食感や味が再現できるとは思えない」


 百合はしゃがみ込むと、栄に詰め寄るように、真剣に言った。栄は百合から目を逸らし「しかしな……」と言い淀む。


「ねえ、何の話し?」


 光は困惑顔で二人を見た。百合は光に顔を向け、「私、コウ君の味、大好きよ」と言うと、昨晩、栄と話したという話しを光に聞かせた。

 聞き終えた光は困惑したまま「でも……」と兄に助けを求めるように顔を向ける。


「ねえ、どうだろう?」


 百合の顔は真剣そのもので、どこか必死なようにも見えた。

 栄は目を閉じたまま腕を組んで、黙っている。


「俺は……」と、光が口を開いた。百合は素早く光に顔を向け、栄はゆっくり目を開いた。


「俺は、ハル兄と一緒に菓子が作れるなら、どこでもいい」


 百合は安心したように顔を緩め、ひとつ頷く。


「私ね、今、コウ君が作ったケーキ食べながら、頭にイメージが浮かんだの」


 百合は大きな瞳を輝かせて話しを始めた。


「別に、無理に商店街の中じゃ無くても良いの。でも、人が行き交う所が良い。そこに、ギリシャ風の建物があるの。真っ白い壁に、青い扉、青い窓枠。そこで、洋書だったり雑貨を売ったりしながら、カフェをやってるの」


 栄は腕を組んだまま、「なんでギリシャなんだよ」と苦笑いをした。


「だって、このケーキを食べていたら浮かんだイメージが、ギリシャ風の建物だったんだもん」


 百合が口を尖らせると、それに対し光が笑いながら「でも、あながち、間違いではないよ」と言った。


「何がだよ?」栄は光に目を向ける。


「チーズケーキの発祥の地だよ。元々は『トリヨン』という名前で、プディング風のケーキだったから、今のチーズケーキとは全然違う物だったんだけどね。それが、ヨーロッパ各地に広がって、今のチーズケーキが出来たんだ」


 光の説明を聞くと、百合は「私って、すごい」と自分で自分を誉めていた。


「あ、でね、お店の名前なんだけど」


「もう店の名前まで決まってるの?」


 栄は呆れながらも、いつの間にか身を乗り出して話しを聞いていた。


「名前は、カフェ・リリー。どうよ?」


 百合は胸を張って宣言する。

 栄と光は顔を見合わせ、小さく笑うと、最終的には大笑いをした。


「なによ!この素晴らしい名前を笑うな!」


「どこまで自分好きなんだよ。大体、自分の娘の名前を店の名前にするな!」


 栄はお腹を抱えながら言った。光は笑いっ放しで、何も言わなかった。

 百合は口を尖らせていたが、二人が笑ってる姿に釣られて、一緒に大笑いをした。

 ひときしり笑い終えると、百合は時計に目を向け「大変。もう、こんな時間!」と目を丸くした。


「ハル君、急いで。店が閉まっちゃう!」


「え?どこか行くの?」


 光も慌てて立ち上がると、百合は光の両肩に手を当て、座らせた。


「コウ君はお留守番」


 ぽかんと口を開け、百合を見上げている光に「今日は、俺たちが夕飯を作ってやる」と栄は答えた。


「え?」


「今から食材買いに行ってくるね」


 そういうと、百合は鞄を持ってキッチンに向かい、調味料の入った棚をチェックした。


「お前、成人式帰ってこなかったろ。もう、だいぶ過ぎてはいるが、お祝いをしてやりたいんだと。有り難く思え」


 栄はにっと口角をあげると、玄関へ向かい、百合と家を出て行った。

 二人が出て行くのを見送りながら、光はぼんやりと「成人……か」と呟き、微笑む。

 胸の奥に、ほんのりと暖かい明かりが生まれたような、そんな気がした。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] ギリシャ、と言う言葉まで伏線だったとは…光と栄にとって、本当に百合が大切な人物で、その人物を失ったことがかなり辛いことだったのだと理解できますね…。 一体二人、そして中西家の二人がどうやって…
2023/01/19 23:17 退会済み
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