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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

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第182話 初めてのケーキ

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 光はコーヒーが溢れたジーンズを拭きながら、栄を横目で睨み付ける。


「ないよ。ミシェルさんは妻子がちゃんといます」


 それを聞くと、栄は「なぁんだ」と、つまらなそうに言った。光は栄の横顔を、怪訝そうにしみじみと見つめる。


「何をがっかりしてるの?そもそもハル兄、そういう偏見って良くないよ」


 光が言い放った言葉には、鋭く光る棘が無数にも付いていた。その一言が、栄の胸をぐさりと突き刺す。


「ごもっともな、厳しい一言で……」


 弱々しい声で言うと、光は更に続けた。


「だいたい、何の根拠があるの?あ、もしかしてハル兄がそうだとか?百合さん、かわいそう。カモフラージュだ。あ、そうか。今分かった!ハル兄、昨日酔っぱらって、やたら『俺はコウが好きなんだよ』ってしつこく言ってたし、やたら抱きついて頭撫でて来たよな。そうか、そう言うことか!俺、別に偏見は無いけどさ、兄弟でそれは無いわ!」


 光は勢い良くベンチから立ち上がると、笑いながら後ずさりした。栄は顔を真っ赤にし、ぼんやりとした、遠い記憶を思い出そうとした。確かに、そんなことをした様な気もした。しかし、間違った認識で見られるのは堪らないので、弁解をした。


「違う!俺はノーマルだ!ひどい……。コウが苛める……」


 栄はベンチに寝そべり、泣き真似をして見せる。光は大笑いしながら、「変態ハル」と止めを刺すかのように言った。



 公園を出て、本屋に行く途中、光の携帯電話が鳴った。光はかかってきた番号に首をかしげながら「アロー」と電話に出る。


「あ、百合さん。どうしたの?」


「百合?」光は栄の声に頷いた。


「ん?わかった、じゃあ、今から帰るから。うん。じゃあ、後で」


「何だって?」


「うん。もう帰ってきたみたい。家の近くにいるから、帰って来いって」


 その言葉を聞いて腕時計を見た。まだ、四時を回ったばかりだった。二人は本屋に行くのを止め、家に帰ることにした。


 家の前に既にいた百合は「おかえり」と元気な声を上げ、両腕を振って出迎えた。


「なんだよ。約束では五時までデートさせてくれる事になってたろ」


 栄はわざと不機嫌そうな顔をし、百合を見る。

 百合は悪びれる様子もなく「だって、友達が用事があるって言って、帰っちゃったんだもん」と言い訳をした。


「まあ、いいじゃない。ケーキがあるんだ。三人で食べよう」


 そう言うと、光はさっさとアパルトマンに入っていった。

 栄と百合は「ふん」だの「いー」だの、百面相をしながら光の後に続いた。


「さあ、どうぞ」


 光はコーヒーテーブルに三人分のケーキと水を置くと、少し罰が悪そうに「ごめん」口にする。


「紅茶があったはずなんだけど、見たらなくて。コーヒーも切らしてるから、水で我慢してください」


 そう言い、床に胡座をかいた。


「チーズケーキ!コウ君、覚えててくれたの?嬉しい!」


 百合は、テーブルの上に置かれたベイクドチーズケーキを見て大興奮で言う。


「なに?好きだったっけ?チーズケーキ」


 栄はフォークに手を伸ばしながら訊くと、百合は栄を軽く睨み「旦那のくせに、覚えてないんだ」と、泣き真似をした。

 光は笑いながら「俺は覚えてるよ。それに、これは母さんも好きだったからね」と言い、自ら一口食べた。


「これは、俺が生まれて初めて作ったケーキなんだ。中学生の時、母さんの誕生日に作ったんだ」


「そんなこと、あったか?」


「ハル兄は知らないよ。だって、こっそりあげたんだもん」


 光は困ったように微笑む。


「まあ、食べてみてよ。俺が作ったケーキ。ハル兄達のために作ったんだ。非売品だよ」


 栄は光を一瞥すると、ケーキを一口食べた。

 スフレのような食感。しかし、しっかりとした濃厚さがある。台はビスケットを砕いて固めた物だ。ほんのりレモンの香りがする甘さ控えめのケーキは、後を引く美味しさだ。


「どう?」


 光が首をかしげ、栄の顔を覗き込む様に訊ねると、栄は目を輝かせ「うまい!」と大きな声で言い、百合もケーキを口に運ぶ。


「本当に美味しい!お世辞抜きで、美味しい!」


 光は二人の言葉に、輝く笑顔を見せ「よかった!」と、声を上げた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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