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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
1 はじまり

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18/201

第17話 本を買えた客

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


 栄は、笑顔を崩さず雪を見つめる。


「いえ、それが、下で買い物してきたお客さんなんです。それも、女性客」


 雪はそれを聞いて目を丸くし、動かしていた手をぴたりと止めた。


「下って……まさか、コウくんが接客したって事?」


「そう!しかも、ここのチケットまで渡したんですよ!女性客に!」


 雪は口をあんぐり開けて、驚き顔のまま何度もゆっくりと頷いた。


「ど、どんな子だったの?美人?」


「ええ、まあ、美人でしたよ。何か、女優さんに似てたな。何て名前だっけ……」


「え!女優本人?」


「いえ、似ているだけです。お客さんの方が若かった。きっと学生さんですね」


「そう……。あのコウくんがねえ……」


 雪は「そうなの、へえ」と何度も繰り返しながら、買い物袋から荷物を出していた。


「今まで、コウくんが認めたお客さんって、商店街の人以外、居なかったじゃない」


「あいつ、変な所にこだわりがあるんですよねえ。前に、商売なんだから、そういうこだわりは無くしてくれって言ったら、『ここにいる本は、大事な息子同然だ。ただ漠然とした気持ちで買って、また捨てられるなんて、そんなのは許されない。本当に欲しいと思っている人が、買うべきだ』って。商店街以外の人で買えた人は八人。しかも、みんな男性客で、チケット渡した事も無かった。コウが接客して買えなかったお客から、何件クレームが来たことか……。お陰で、開店当初はどうなる事かと思ってたけど。バイトの笠井くんが来てくれて、コウが接客することは無くなったのに……」


 栄は息を吐きながら、がっくりと肩を降ろした。


「長く働いてくれたけどねえ。仕方ないわよ、お父様が倒れたって言うんだから」


 雪は、昨日突然辞めたアルバイトの笠井の顔を思い浮かべ、気の毒そうな顔をした。


「まさか、梨園の息子とは……。突然辞めたんだ。お詫びとして毎年、梨送ってくれないかなあ。ただで。そしたら、新しくタルト作れるじゃない」


「ただって……。せこいわよ」


 雪は苦笑をする。


「パパ、ごちそうさまでした」


 厨房の入り口に、空の瓶を両手で持った里々衣が立っていた。

 厨房の中に入ってはいけないと、いつも言い聞かせているので、里々衣は入り口より先には入って来ない。

 栄は「はい。美味しかった?」と聞きながら里々衣の目線に屈む。里々衣は「うん」と返事をすると、栄に瓶を渡した。

 栄は娘の頭を優しく撫でると、ゆっくり立ち上がって、シンクの上に空き瓶を置く。


「パパ、コウちゃんが、どうかしたの?」


「ん?ああ……。コウおじちゃんが、本を売ったってお話ししてたの」


「ふうん?」


 里々衣は首をかしげ、目を逸らし、曖昧な返事をした。興味がないと、そう言う返事をする。


「パパ、コウちゃんどこ?した?」


 栄は壁時計を振り返る。六時を回っていた。


「たぶん、下で閉店作業をしてるよ。行って、手伝ってあげるといい。喜ぶよ」


 里々衣は元気よく「うん!」と返事をすると、勢い良く裏口を出て行った。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 本を売ることが珍しい本屋さんとは…なかなかこだわりが強そうですね…!そしてなぜやめてしまったのでしょう…気になります。
2022/09/23 09:29 退会済み
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