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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

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第176話 吐露

いつも読んで頂き、ありがとうございます。




 

 階段を降りてきた栄を見ながら、光は「ごめん。起こした?」と小声で訊く。


「いや、大丈夫だ……」


 声を落としながら光に近づくと、床の上に座った。

 テーブルの上に散らばった紙を覗き込み「何やってるんだ?」と、訊ねる。


「ああ……。何だか、急に新しいケーキの案が浮かんで……。落ち着かなくなって、描いてたんだ」


 光は紙を集めながら小さく笑う。


「よかったら、見せてくれないか?」


 栄がゆっくり手を伸ばす。光は手元の紙をじっとみつめ、躊躇いながら、というよりも、どこか恐る恐るといった感じに差し出した。

 栄は光から紙を受け取り、じっくりと一枚ずつ目を通し、捲っていった。ケーキのデザイン画はどれも素晴らしく、材料のメモを読んで「食べてみたい」と思うような物ばかりだ。

 全て見終わると、光は不安そうに「どうだろう」と訊ねてきた。

 栄は「うん」と頷くと、「どれも、良いと思うよ」と、答えた。その答えに、光はホッとしたように微笑んだ。


「お前でも、不安になるんだな……」


 思わず口を付いて出た言葉を、栄はすぐに後悔した。その声には、どこか鋭さがあったからだ。


「え……」と、光の顔が瞬時に曇る。


「どういう、意味?」


 栄は目を瞑り、自分の中の黒い部分と格闘をしたが、目を開いた時には黒い苛立ちの自分が勝り、口を開いていた。


「……俺を試して楽しんでるのか?嫌そうな顔で見せるぐらいなら、何で断らない?何で見せたんだ?俺にはどうせ、菓子について分かる訳が無いとでも言いたげに。俺が良い、悪いと言ったところで、本当は腹の底では『何も分かってないくせに』と、笑っているんじゃないのか?」 


 俯いたまま、声を抑え話す栄の口は、心とは裏腹に動き続ける。次々に捻くれた感情が、喉元を這い上がってくる。これ以上、何も言いたくないのに、こんな事を言いたいんじゃない、そう、もう一人の自分と心の中で格闘した。


「ハル兄?」


 困惑した顔で光が見つめる。


「俺なんかに意見を求めて、安心したような顔を見せて。馬鹿な兄は、それで満足するだろう、そう思ってるのか?大会で何度も優勝して、本当は自信満々なんだろう?」


 光は素早く後ろを振り向き、トロフィーを一瞥し、栄に顔を向ける。

 栄は顔を上げて、怒りと悲しみが入り交じった顔で、光を見ていた。

 光は自分の手元に目を移し、言葉を探しているようだった。

 栄はじっと弟の言葉を待った。


「……自信なんて、無いよ」


 俯いたまま、小さな声で光は言う。


「それに、ハル兄を馬鹿と思ったことも、馬鹿にしたことも、一度もないよ。それは、本当だ」 


 そう言うと、真っ直ぐ顔を上げた。その瞳は真剣そのもので、間接照明の光が映った眼光は、オレンジ色に光り、怒りの色にさえ見えた気がした。

 光は、ゆっくり淡々と話し出した。静かな部屋に、時計の秒針が、光の話に相槌でも打つかのように、カチカチと音を立てる。


「あそこにある賞は、自慢できるような物じゃなくて……。小さなコンテストの物で……出場者も少ないし、レベルも低い……。大会慣れをするために、色々出た方が良いって、人に勧められるがままに、出てみたんだ」


 そっと目を伏せた。長い睫が、頬に影を落とす。


「確かに、シェフに誉められたり、お客さんに喜んでもらえたりすれば、自信が出る。でも、その一時だけだ……。あの大会に出て、優勝したからって、自信が出たことはないよ……。むしろ、もっと頑張らなくちゃって、思ったし……」


「……なんで、連絡を寄越さなかった?」


 栄は何の感情もない、冷めた表情で光を見た。光は黙ったまま目を伏せている。


「例え、どんな小さな大会だろうが、母さんが生きていれば、お前は連絡しただろう……。俺は、そんなに信用されていないのか?」


 その言葉に光は小さく首を横に振り、顔を上げた。泣きそうな、悲痛に満ちた顔だ。


「俺は、以前まで、お前をちゃんと見ていなかった。でも、今は違う、そう思っていた。だけど、実際は違っていたんだ。俺には、お前が分からない……」


「……」


 光は何かを言おうと、口を小さく開いたが、栄が首を横に振り「すまん」と小さな声を出した。光は口を噤み、栄を見つめた。栄は深く息を吐き出すと、目を瞑り、深呼吸をするように、ゆっくり息を吸い込んだ。そして、先ほどとは違う、静かで落ち着いた声で話し出した。だが、その顔は、憔悴しきった様に影を落としていた。


「別に、お前の生活について逐一報告しろと言うんじゃないんだ……。ただ……。ショックだった。電話で話をするだけでは、やっぱり駄目な事は多いんだな……。お前にとっては、大した事の無い、些細な出来事だったかも知れない。でも、俺は、お前が誰かに誉められたりしたなら、嬉しいことだし、一緒に喜びたい。だけど、そのトロフィーを見たとき、お前は違うんだなと、思ったんだ……」


 栄は立ち上がると、書棚に置かれたトロフィーを手に取った。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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