第170話 アパルトマン
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店を出てすぐ。
百合の姿を見て、光はそれ以上目を見開くと目が落ちるのでは、と思うぐらい、大きく見開き、口を開け、驚いた顔をする。
その顔を見て、百合は大笑いをした。
「コウ君のそういう顔、初めて見た!ハル君、サプライズで来て良かったね。珍しい物が見られた!」
「確かに!」
栄は百合の笑い声で緊張が解れたのか、一緒になって大笑いし始めた。
「……なに?……え?ええ……」
状況が飲み込めていない光は、困惑と嬉しさの混じった顔で、栄と百合を交互に見た。
栄は笑い終えると「仕事でね、三日前に来たんだ」と言うと、光は「ああ、なるほど」と納得したのかどうなのか分からない、ぼんやりとした声を出す。
「それで、残りの時間、お前の仕事っぷりを見に来たって訳だ」
そういって、光の背中を叩いた。
「ケーキと焼き菓子、さっき食べたの。そしたら、ハル君ってば、だめだ、今すぐコウに会いたいって言って。ね?」と、栄を見上げる。栄は、黙って深く頷き微笑んだ。
「え、本当?もう食べたんだ?」
驚きながらも、嬉しそうな顔で光は訊いた。
「ああ。旨かった。凄く旨かった!」
栄は嬉しそうに光の首に腕を回すと、犬でも撫でるかのように、光の髪をぐしゃぐしゃに撫で回した。
光は笑い声を上げ、兄の腕から逃れ、どの菓子を食べたのか訊ねた。
百合がそれに答えようとしたが、光は「ちょっと待って」と、すかさず止めた。
「今聞いたら、今日一日、仕事にならないかも。いつまでいるの?今日、七時には上がるんだ」
光は瞳を輝かせて訊く。
「今日はここに泊まるつもりだ」と、栄が答えると、百合の脇にあるスーツケースを見て、「まだ、ホテル決めてないの?」と訊ねてきた。
「今から探すの?だったら、うちに来れば?広くはないけど、泊まれない訳じゃない」
光は店内に戻り、数分後、メモ用紙と鍵を持って戻ってきた。
「これ、アパルトマンまでの地図。ここの道を真っ直ぐ行って、左に曲がれば良いだけ。十分くらいの所だよ。百合さん、分かる?」
百合は光からメモを受け取ると、「ああ」と頷いた。
「この通りなら、知ってる」
「よかった。はい、これ鍵。勝手に上がっていいから。荷物置いてきなよ。あ、靴は脱いでね。じゃあ、僕は戻るけど、七時近くになったら、また来て。夕飯、一緒に食べよう」
「分かった」
光は「じゃあ」と言うと、再び店内に戻っていった。
栄と百合は、光に渡された地図を片手に、アパルトマンを目指した。
光の言う通り、十分足らずで辿り着く。
門を開け中に入ると、メモの指示に従い建物に入り、二階の突き当たりにある部屋に向かった。
鍵を差し、ドアを開ける。すると、すぐキッチンだったため、栄は一瞬、日本のワンルームを思い浮かべた。靴を脱いで中に入る。キッチンは六畳ほどの広さで、二人用の小さなダイニングテーブルがある。シンクが妙に綺麗で、使っている気配が無い。部屋の奥へ進むと、白で統一された八畳ほどの広さがあるリビングだった。二人がけの白いソファとコーヒーテーブル、壁側には書棚があり、窓際にはパソコンが置かれた小さい机。白いキャビネットの上には電話が置かれていた。部屋の中は、綺麗に片付けられており、清潔感のある部屋だ。
もう一つのドアを開けると、そこは浴槽付きのバスとトイレ。バスルーム脇に階段がついており、ロフトになっている。階段を数歩上り覗くと、ダブルベッドが置かれていた。階段を下り、改めて部屋を見回す。
生活に最低限必要な物だけが置かれており、無駄がない。唯一、書棚にぎっしり詰まった本とCDが、人の住んでいる気配を感じさせた。
「綺麗にしてるのねえ」
百合は心底、感心したように言った。
「うん」
栄は再び、自分の知らない光を見ているような気がしながら、黙って頷いた。
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