第16話 ひとり娘
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栄が小さく鼻で笑っていると、「ただいまあ」と、可愛らしい声が店内に響いた。
栄は一瞬で現在に引き戻される。
カウンターから身を乗り出すと、「お帰り」と大声で応える。
「ただいまあ。買い出し、こんなにあるならハル君が行ってくれれば良かったのに。重い!」
買い物袋を三つ腕にぶら下げた三十代後半の女性が、疲れ切った顔で店内に入ってきた。
「お帰りなさい。ご苦労様でした、雪さん。さ、冷たいアイスコーヒー、用意してお待ちしておりました」
栄は笑いながらカウンター越しにアイスコーヒーを手渡した。
雪と呼ばれた女性は、「ありがとう」と言って受け取ると、一気に飲み干す勢いで飲んだ。
「パパ、りりーには?りりーも、おてつだいしたよ」
栄はカウンターに身を乗り出し、小さな女の子を見下ろした。瞬きをすると、音でも聞こえてきそうな大きな瞳が、真っ直ぐ栄を見つめている。
「もちろん、里々衣の分もありますよ」
そう言うと、栄は冷蔵庫から小さな瓶を取り出し、カウンターから出て、里々衣の前に屈む。
「はい、どうぞ」
小瓶を里々衣に手渡すと、里々衣は満足げな顔で受け取り「ありがとう」と言い、席についてオレンジジュースを飲みはじめた。
「今日、保育園で何か言われませんでした?」
栄は立ち上がりながら雪に訊ねると、雪は不思議そうな顔をし、首を振る。
「ううん、特に何も。何で?」
雪は飲み終えたグラスをカウンターに置き、栄と一緒に買い出ししてきた荷物を厨房に運んだ。栄は冷蔵庫に食材を入れながら、声を抑え話しはじめた。
「この間、喧嘩したらしくて」
「喧嘩?」
「母親のことで、誰かに何か言われたようです」
「そう……」
雪は眉間に皺を寄せ、「困ったわね」と言い、栄の背中を優しく叩いた。栄は困ったように微笑むと、すぐに目を見開き、「そうだ!」と、輝いた顔を見せた。
「今度は何?」
雪は笑いながら栄の笑顔を見上げる。
「今日、ついさっきまで居たんですけどね、新しいお客さんが来たんですよ」
「新しいお客さんって……別に珍しくも何ともないじゃない」
雪は苦笑しながら、次の言葉を促した。
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