第168話 3種類のケーキ
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店内は縦長で、狭く、客で混み合っていた。カウンター内にいる売り子の女性が、愛想良く「ボンジュール」と声をかけてきた。
栄は微かに震える声で「ボンジュール」と返すと、店内にある菓子に目を向けた。ケーキはもちろん、焼き菓子に、パン、総菜が、所狭しと陳列されていた。どれも庶民的ではあるが、丁寧な作りで、見ているだけで喉の奥が鳴った。
「何か、買ってみようよ」
百合の言葉に黙って頷き、ケーキを三種類と、焼き菓子を数種類、購入した。
レジで会計をしている最中、カウンター奥に見えた厨房が気になって仕方がなかった。光は居るだろうか、と、首を伸ばしたが、見えなかった。ふと気がつくと、レジを打っていた女性が嫌そうな顔で栄を見ている。栄は愛想笑いをすると、金を払い、外に出た。
先に外に出て待っていた百合が「さっき通ってきた公園に行こう」と言った。
二人はのんびり公園へ向かった。
少し雲がかかった天気だったが、過ごしやすい気温だ。
公園に着くと、二人は芝生の上に座り、トランクをテーブル代わりにして、ケーキの箱を開けた。
タルト生地にチェリーを並べ、プリンの様な液体を流し込み固めた【クラフティ】、旬のフルーツが生クリームと一緒に巻かれた【フルーツロールケーキ】、カスタードクリームとパイ生地を交互に重ねた【ミルフィーユ】。
どれもシンプルではあったが、シンプルだからこそ、手抜きが出来ない。誤魔化しの利かないケーキを、敢えて選んだ。
栄は百合に渡されたウエットティッシュで手を拭き、持参したプラスチックのフォーク取り出し、クラフティに刺し込んだ。すっと入り込む。タルト生地は若干堅めではあるが、これは計算されてのことだろう。時間が経って、生地が柔らかくなると、全てが崩れやすくなる。
だが、少し堅めで作ることで、時間が経っても、タルトのサクサク感を楽しめる。
タルト生地は、ちょっと力を入れれば、簡単に砕けた。
栄はクラフティを口に運ぶと、じっくり味わうように無言で食べる。プリン生地は、なめらかで、さっぱりした甘さ。なめらかさと対照的なタルト生地のサクサク感が面白い。タルトの粉っぽさが後味に残るケーキもあるが、これは気にならなかった。
次に、フルーツロールケーキに手を伸ばす。ふわふわのスポンジは丁度良い弾力性がある。口の中に含むと、ミルクの味が濃く、新鮮さを感じさせる生クリームが口の中に広がった。
次いで、フルーツのジューシーさが後を追うように押し寄せる。フォークを刺したとき、すんなりと刺さっていったスポンジは、不思議なくらい軽く、全てと絶妙に絡み合っていた。生クリームの後味はさっぱりとしていて、生クリーム独特の脂っこさは残らない。
最後に、ミルフィーユに手を伸ばした。ミルフィーユを横に倒す。プラスチックのフォークでは無理かと思ったが、さっくりと切ることが出来た。カスタードクリームの水分量は、生地のサクサク感を損なわない堅さで出来ていた。良く練られた極めの細かいカスタードクリームは、バニラの味が仄かに広がり、濃厚だが飽きない甘さだ。
栄が全ての試食を終えるまで、黙って見ていた百合は、小首をかしげ「どう?」と訊ねてきた。
栄は「うん」と、息を吐き出しながら頷く。
「すごいよ。はっきり言って、有名店の菓子より、ずっと旨い。昨日まで食べ歩いた菓子も、驚いたし、どれも旨かった。でも、どこか似たり寄ったりな感じがしたんだ。これは、どことも違う」
栄は感情を押さえつつ、淡々と言ったが、興奮しているという事を、百合は感じ取っていた。
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