表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
9 百合と沖田兄弟の過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/201

第166話 フランスへ

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 フランスに到着して三日目。


 サマータイム中のヨーロッパは、夕方の五時を過ぎても明るかった。

 午前中、栄は百合が書いた地図を片手に、駆け足で回るべき所を回り、夕方、百合と合流した。

 百合は学生時代に留学経験もあり、道に詳しかったのだ。


「ハル君、こっち!」


 何かを食べながら手を振る百合に、栄は小走りで近づいた。


「ごめん、待たせた」


 百合は何かを頬ばりながら「平気」と言った。


「何それ?クイニー・アマン?」


 半分以上食べ終わっている包みを覗きながら、栄は訊く。


「そう。食べる?」


 百合は残りを栄に差し出した。栄はそれを受け取ると、大きく口を開けて残り全てを口の中に入れた。


「大きな口!しかも、ひっどい顔してる!」と百合は手を叩いて笑う。


 栄は顎を大きく動かしながら、口の中に入ったクイニー・アマンの味を噛み締めた。

 ごくりと音を立てて飲み込むと「このバター、旨いな。触感が今ひとつだけど」と、いかにも菓子屋らしい言葉を口にした。


「すごいね、ハル君。違いの分かる男」


 百合は本当に感心しているのか、茶化しているのか分からない言い方をした。それでも、栄は「ふふん」と鼻を鳴らした。

 ミネラルウォーターを一口飲むと、「でも、俺より、もっと凄い奴がいる」と言った。


「誰?私も知っている人?」


「もちろん。コウだよ」




 栄は百合の手を取ると、フランスの町中を歩き出した。五時を過ぎると、小さい店の大半が閉店する。人通りの多い大通りに面した道を歩くと、レストランが並んでいた。

 二人はその内の一軒に入ると、ア・ラ・カルトで好きな物を注文し、シェアをすることにした。

 百合は前菜のブイヤベースのゼリーを口に運びながら、思い出したかのように先ほどの話しの続きを始める。


「で、なんで、コウ君の方が凄いの?」


 栄は一瞬何の話しかと思ったが、すぐに分かり、「五年前、うちの菓子の材料が変わっただろう」と言った。百合は黙って頷いた。


「あれ、今じゃ、殆どの社員が気がついてるけど、一番最初の頃、分量を変えたのは少量だったし、社内連絡も回っていなかったから、製造の人間を除いて、社内で材料が違うって気づいた人間は居なかったんだ。実際、俺も気がつかなかった。でも、コウはすぐに分かったんだよ。粉が違う、分量も違う。それも、たった一口で」


 栄は当時のことを思い出しながら言った。あの頃から、光は百合に色々相談をしていたんだと、ふと思った。栄は顔を上げると、真顔で百合を見つめる。百合は、運ばれたスープに舌鼓を打っていた。


「なあ、百合さんはあの頃、コウの事、どう思ってた?」


 突然の質問に百合は咽せ、咳が収まると「何を急に」と、不思議そうな顔で栄を見た。


「いや、あの頃から、親密に連絡を取っていたわけだろう?」


「親密って……。たまに話しを聞いたり……留学したいって言っていたから、相談に乗ってただけよ。可愛い弟」


「本当に?それだけ?」


 栄は若干身を乗り出して、百合の顔を覗き込むように訊く。百合は眉間に皺を寄せ、栄を見返した。


「なに、それだけって?もしかして、疑ってるの?」


「いや、そう言うんじゃないけど……」


「じゃあ、どういうのよ」


 百合はすかさず訊いた。栄は困った顔をしながら、こめかみを掻いた。


「ほら、コウって、母性本能をくすぐるような所があるんだろ?昔、事務の今居さん達がコウに夢中だったことがあってさ。だから……」


「私も惹かれていたんじゃないかって?」 


「まあ、そんなところ……」


 栄が下を向いて、ごにょごにょ言うと、百合は持っていたスプーンを置いて、大きく息を吐き出した。


「確かに、コウ君、綺麗だしね。はにかむと可愛いし。さり気なく優しいし。モテる感じよね。でも」


 でも、と強調するように言うと、百合は真顔になった。


「私、十代に手を出すほど、餓えてませんでしたから!」と、力強く言い放った。 


 百合は怒ったまま、栄に顔を向けることなくスープを一心不乱に口に運んだ。


「ごめん。ちょっと気になっただけ。本当、ごめん。百合さあん」


 暫くして、百合はナプキンで口元を軽く拭くと、鋭い視線を栄に向けた。栄は愛想笑いをして「ごめんね」と言った。百合の口元は徐々に崩れ、最終的には笑い出した。


「何?もしかして、当時を思い出してヤキモチ妬いちゃったの?」


 図星をつかれた栄は、口を尖らせ「まあ、そんなところです」と小さな声で応える。


「かわいい!可愛いねえ、ハル君は。もう、大好き」


 そう言って、声を立てて笑った。周りの客が訝しげに栄達を見ていたが、百合の笑い声が心地よく、栄は周りを気にするのを止め、一緒に笑い出した。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ