第163話 夜中の電話
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美月は帰宅時間を過ぎても、職場の更衣室に居た。
「あら、中西さん、まだ帰ってなかったの?」
床に這い蹲っていた美月は、顔を上げ後ろを振り返り、声の主を見た。
「ああ、お疲れ様です、店長。いえ、帰りたいんですけど、自転車の鍵が見つからなくて、今ちょっと探してたんです」
美月は立ち上がり、「今日は諦めて歩いて帰ります」というと、「後で探しておくわ。気をつけて帰るのよ?」と店長は微笑んだ。
美月はお願いをすると、更衣室を出た。
腕時計を見ると、九時五十分を過ぎていた。これから歩くとなると、十時二十分頃に着くな、と思いながらフィットネスクラブを出た。
大通りを真っ直ぐ歩き続け、緑が丘公園の角を曲ると、ふと美夜の顔が浮かんだ。
「あ、美夜に電話しなきゃ」
公園付近は大通りと違って、人通りが極端に経るだけでなく、街灯の数も少ないせいか、とても暗く見えた。普段は自転車であっと言う間に過ぎてしまうが、歩きとなると若干、不安を覚える。それでも、電話をしながら歩けば、不安も紛れるかと思った。
歩きながらデイバッグのチャックを開け、スマホを取り出そうとしたときだった。
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「え?美月ですか?いえ、まだ帰ってませんが……。はい、はい。分かりました。ありがとうございます。はい、失礼します」
美夜は電話を切ると、時計を再度見た。歩きだとしても、もう着いてて良い時間だ。ふいに嫌な予感がした。
スマホを握り、美月のスマホに電話をかける。呼び出し音が鳴るだけで、一向に出る気配がない。
美夜は胸騒ぎを覚えた。先ほど見たニュースが頭から離れない。嫌な予感が胸の底から湧き上がる。
急に光の声が聴きたくなった。
声が聞きたい。あの柔らかな声で、大丈夫と言って欲しい。
美夜は、光のスマホに電話したが出る気配がない。すぐに切ると、今度は家の固定電話にかけた。五回目のコールで、穏やかな声が受話器から漏れてくる。
求めている声とは違うが、それでも美夜の心は幾分か落ち着きを持ちはじめた。
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十時を過ぎて電話が鳴ることは滅多にない。
「誰だ、こんな夜中に」
栄が文句を言うと、光が笑いながら「自分は明け方に電話かけてきたくせに」と、留学時代のことを言った。
栄は笑いながら「もしもし」と電話に出た。
『ハルさんですか?美夜です』
「おや、美夜ちゃんじゃない。どうしたの、こんな時間に」
美夜の名前を聞き、光があからさまに動揺し、茶葉をダイニングテーブルにぶちまけた。
栄はそれを横目に、笑い声を押させ苦笑する。
『ハルさん、私、嫌な予感がするんです』
「な、なに?どうしたの?」
栄の声色が代わり、光は栄の声に耳を澄ました。
電話口での美夜は、かなりの動揺をしている。
『美月が、帰ってこないんです。仕事先も、もう随分前に出たって店長さんが言ってて。電話をかけても出ないんです。あの、私、すごく胸騒ぎがするんです。どうしたらいいかわからなくて……』
「分かった、分かったから、落ち着いて、美夜ちゃん。いい?今から一旦電話切るよ?俺が美月ちゃんに電話してみる。それで、美月ちゃんに電話が繋がったら、美夜ちゃんに電話するから。ね?また電話するから、美夜ちゃんは家から出ちゃ駄目だよ?わかった?」
栄は美夜の返事を聞き、「じゃあ、また後でね」と電話を切った。
「ハル兄……」
光はいつの間にか栄の側に立っていた。栄は険しい表情で「美月ちゃんが帰らないらしい……」と言った。
光は眉を顰める。
栄は一つ頷くと、スマホで美月に電話をかける。数回しか鳴っていないコール音が、長く感じる。栄は苛つくように、キャビネットを指先で叩いた。
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