第160話 心の変化
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
明らかに何かがおかしい美夜を、栄と雪は訝しんだ。
「なんか、最近笑うようになったのは良いけど、表情が硬すぎるのよね」
雪は皿を洗いながら小さな声で言った。
栄はプレートに飾り付けをしながら「ですねえ」と答えた。
「何があったのかしら?」
「さあ……。まぁ、まだ完全に心の傷が癒えているわけじゃ無いと思いますし……」
栄は囁くように言うと、「よし出来た」と言って、注文客の所へケーキを運んだ。
栄がカウンターに戻ってくると、雪は再び声を潜めて話しを始めた。
「コウくんの様子も、なんか微妙におかしくない?」
「コウですか?」
栄は、普通ですよと笑った。
「いや、何かあるわよ。こう、二人の距離感、って言うの?以前とは明らかに何かが違うのよ」
雪は自分の意見に何度も頷いた。
「雪さん」
栄は苦笑いしながらグラス拭きをはじめ、チラリと雪を見る。
「恋愛本でも読みすぎなんじゃないですか?で、なければ、ドラマの見過ぎ」
「違うわよ。これは女にしか分からない、感よ、感」
雪は少し声を大きくして言った。栄は苦笑いをして「感ねえ」とあしらった。
しかし、心の隅では雪の言葉に唸っていた。確かに、光の様子が一時期、妙なテンションだった事があった。鼻歌は歌う、寝かしつけなければいけない里々衣をからかい、遊ぶ、口笛を吹く。
普段は静かに菓子の新作を考えている光が、いつもしないような事をつい最近、数日間だけしていた。それもすぐに収まりはしたが、それも関係してるように思えた。
「何があった?」
栄は口の中で小さく呟く。
雪は「え?なに?」と訊いたが、無視をした。
「そう言えば、最近、美月ちゃん来ませんね」
栄は壁に掛かった美月の絵を眺めながら言った。
「そう言えばそうね。里々衣も寂しがってるでしょう」
「ええ、まあ。でも、美夜ちゃんが居るから、そうでもないですね。彼女たちが居なくなったときは、俺、殴られましたもん。パパの馬鹿って。馬鹿なんて言葉、どこで覚えてきたんですかねえ」
栄は苦笑しながら言った。
「そりゃあ、保育園でしょう」と、雪は誰でも思い浮かぶ言葉を返す。
栄は「そうですね」と答えながら、美月の絵に視線を向ける。
美月の笑顔や、声が聞きたいなあと、思った。また、色々な話しをしたい。絵本の話しも聞きたい。里々衣の話しで聞かせたいこともある。
栄は、ごく自然に、当たり前のようにそう思った。と、同時に、栄は驚いた表情をし口元に手を当てた。
そう思った自分自身に、心底驚いたのだ。
今まで、百合以外の女性で、そう思った人物は居なかった。
栄は自分の腹に手を当て、ベストを掴んだ。この気持ちは一体何なのだと、自問自答する。
胸が熱くなり、栄は「ちょっとトイレ」と言って裏口を出て行った。
階段を途中まで降り、ズボンのポケットに手を伸ばす。ポケットに入った煙草を取り出すと、一本火を付け、頭を抱えた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




