第15話 思い出
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
少し長めです。
六月のギリシャの日差しは、眩しいを通り越して、白い、という印象が強かった。
周りの建物の白さもあるが、日差し自体が白く見える。そして、真っ青な海が、眩いぐらいにきらめいていた。まるで、この世で一番美しい色は、白と青です、と言わんばかりに。その色が街中に溢れている。
栄は、そんな白と青の世界を、カメラに納め歩いた。暫く歩き高台に登ると、一人の女性が写った写真を、そっと鞄から出し、写真を街並みに向けた。
「百合。百合の想像した風景って、これか?」
眼下に広がる風景を、じっと見つめていると、まるで百合が返事をしたかのように、栄の顔を風が優しく撫でていく。
栄はそっと微笑むと「そうか」と言って、暫くその風景を眺めていた。
ゆったりとした時間の流れを楽しんでいると、後ろから「ハル兄」と、光の声が聞こえた。
光は両手に赤色とオレンジ色のドリンクを持って近づいてきた。栄は鞄に百合の写真をしまうと、光からオレンジ色のドリンクを受け取った。
「何これ?」
「グラニータ。だっけ?シャーベットの様な物だよ。取りあえず、冷たそうだなって思ったから買ってみた。味は確認してないから、飲んでからのお楽しみ」
二人はいっせいのせで、口に含んだ。
光は「ん、旨い。けど甘い」と言い、栄は「ん?」と首を捻った。シャーベットと言うよりは、かき氷に近い物だった。
「コウの何味?」
「イチゴ味だった。見たまんまだね。ハル兄のは?」
「何だこれ?オレンジではない」
と言い、もう一度口に含んだ。
「ん?桃、か?」
と言うと、光に差し出した。二人はお互いのドリンクを交換して飲むと、光が「桃だね」と言った。
喉を通る冷たさが、身体の中をゆっくり降りていくのが分かる。
次に光が差し出した物は、グリークデライトという菓子だった。
「何だかよく分からないけど、店にいたおばさんがやたら勧めるから買ってみた」
と言って、箱を差し出してきた。
箱の中には真っ白な粉が中身を覆い隠すようにぎっしりと入っている。
左端の一つを抓み、軽く粉を振り落とすと、口の中に放り込む。もっちりした食感が、この暑さの中では食べたくない食感に変わる。白い粉は砂糖で、口の中でねっとりとし、甘さが口内にへばりつく。栄は鞄の中からペットボトルに入った水を取り出し、勢い良く飲んだ。
「不味くは、ないけど……控えめに言って、激甘だな……」
その言葉に、光は声を立てて笑う。
「こう暑いと、今は食べたくないよね。これは、元々トルコ菓子のターキッシュデライト。ギリシャにきて、グリークデライトという名前になったんだよ。名前が違うだけで、物は同じ」
光は、これが何なのか説明したものの、自分は食べずに箱をしまった。
栄が目を細め、恨めしい顔で光を見る。光は顔を逸らしながら、鼻歌交じりでグラニータを旨そうに飲みはじめた。
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