第153話 後遺症
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翌朝、美夜はタクシーを呼び、朝五時半に家を出た。
店に着くと、既に栄と光は来ていて、美夜もすぐに支度を調え、厨房へ向かった。
「おはようございます」
栄と光は同時に振り向き、驚いた顔で美夜を見る。
「だ、ど、どうしたの?大丈夫だった?」栄は驚きのあまり、吃りながら訊いた。
「はい、タクシー使いました」
「そ、そうか……。でも、あまり無理はしないで」
「はい、ありがとうございます」
美夜は手を洗い、早速、光のアシストをした。
栄と光は顔を見合わせ、小さく頷きあい、作業を再開した。
栄はチョコレートを箱詰めしつつ、美夜の動きをチラリと見て、小さく微笑んだ。
仕事に夢中になり、嫌なことを忘れていられるなら、それで良いと思った。未だに、以前の笑い顔は見ることは出来ていないが、それでも、こうして前向きに頑張っている美夜を見ると、自分も頑張らなくてはと思った。
八時になると、雪も来て一緒にラッピングの手伝いをした。昨日よりも倍の量で準備万端にすると、昨日同様、喫茶を休み、特別カウンターを作った。
「ここまでして、昨日より人が来なかったら、ショックだよね」
栄がそう言うと、三人は一斉に「絶対大丈夫」と言い切った。
店の開店と同時に、ぱらぱらと人が入り出した。美夜と光は、少し早いが、在庫がまだある今のうちに休憩に入ることにした。
二人は休憩室で栄が作ったグラタンを食べながら、雑談をしていた。
「これ、温めすぎたな。熱い。俺、ちょっと冷たいお茶取ってくる。中西もいる?」
「はい、お願いします」
光が休憩室を出て行くと、美夜は火傷した舌を少し出し、冷やすように手で仰いだ。
光がグラスを二つと、お茶の入ったボトルを持って裏口の階段を降りている時だった。
突然、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。
光は慌てて階段を降り、休憩室へ向かう。休憩室のドアが開いているのを見て、心臓がドクリと大きく音を立てる。
光は休憩室へ駆け込んだ。室内には、椅子から降り、震え蹲る美夜と、困惑し、おろおろとした篤志が立っていた。
「中西!」
すぐさま美夜に駆け寄り、その身体を抱きしめ、背中を摩る。
「コ、コウさん、俺、別に何もしてないですよ。ただ、後ろからびっくりさせようと思って……」
篤志は何が何だか分からないと言うように、必死に光に説明した。
光は美夜を抱え「大丈夫、大丈夫だよ」と言い聞かせた。
「コウさん、俺……」
光は今にも泣き出しそうな声を出す篤志を振り返ると、「お前も、大丈夫だから、もう行け」と言った。
篤志は「すみませんでした」と言って、休憩室を出て行った。
休憩室のドアが閉まるのを見ると、光は改めて美夜を見た。美夜は両腕で自分の身体をきつく抱え込むようにして、光の胸の中で震えている。
光は美夜の背中を優しく叩きながら、顔を険しくさせ、奥歯を噛み締めた。
四時前になると、殆どの商品が売り切れた。
光は美夜に帰るように促したが、美夜は働きたがった。
「身体を動かしている方が、忘れていられるんです」
その言葉を聞くと、光は無碍に帰すことは出来なかった。それに、何かあれば自分がすぐ側に居てやれるとも考え、作業をさせる事を選んだ。客足はまだ止まっておらず、菓子をまだ作るつもりでいた事もあり、美夜の手があるのも、正直助かると考えた。
チョコレート菓子を買いに来た客は、ついでにケーキも購入していき、今までにない売れ行きだった。
五時近くになり、一瞬、客足が途切れると、栄はレジの途中売上を確認し、興奮するように「おお!」と声を上げた。
「すごい。すごいぞ。頑張った、俺たち。すっごく頑張った」
栄は鼻息を荒くして言う。
「はいはい、あと少しだから。どうせなら完売させましょう」
雪は苦笑しながら栄に言い、そして、ちらりと後ろを振り向き、厨房の入り口に目をやった。
「あの子、大丈夫かしら……」
雪の言葉に、栄も厨房へ目を向ける。
「やっぱり、まだ駄目なのよ。そう簡単に癒えるわけ無いもの……」
雪は哀しげに言い、栄は黙って頷いた。
「でも、きっと大丈夫ですよ。だって、コウが付いてますから」
栄は誇らしげに言うと、雪に微笑みかけた。
雪は「そうね、大丈夫よね」と言うと、前を向いて気合いを入れる声を上げた。それに続いて、栄も両腕を上に上げ、「うおおお」と叫んだ。すると、店のドアが開き、里々衣と勝俊が入ってきた。
里々衣は、両腕を上げて叫んでいる自分の父親を見て相当驚いたのか、目を丸くして勝俊の後ろに回り、隠れてしまった。
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