第149話 硝子の万華鏡
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美月にとってケーキとは、ただ甘くて好きにはなれなかった。田舎にあったケーキ屋は、どの店の味も、似たり寄ったりで折角のフルーツも、何だか萎びて見えたくらいだった。
しかし、光の作るケーキは、その素材の良いところを最大限に生かす。甘さは美味しさをより引き出すための手助け程度で、ケーキの中に入ったフルーツが、生き生きしているように感じるのだ。
美月は、光の作るケーキは、美夜が家で作るケーキによく似ていると思った。
美月は市販のケーキは殆ど食べなかったが、美夜が家で作るケーキは、いつでも「おいしい」と思えるのだ。
二人の手はよく似ている。物を作るときの姿勢もよく似ている。美夜が光のケーキに惹かれた理由が、ケーキを食べる度に分かる気がした。
美月は目の前で幸せそうにケーキを食べる美夜を、軟らかい表情で見つめた。
「美夜」
「ん?」
「美味しいね」
「うん」
二人は似たような笑みを浮かべ頷き合うと、再びケーキをじっくりと味わいながら、黙って食べ進めた。
ケーキを食べ終えると、二人はカウンター席に行き、栄にプレゼントを渡した。
「え?なに?今日は何の日?」
栄は驚きながらも嬉しそうに包みを開けた。
「あ!財布だ!」
黒の二つ折りの財布は、開くと青い車の写真がプリントされていた。
「へえ、なんか、お洒落だね。ありがとう。すごく嬉しいよ」
栄は本当に嬉しそうに頬を緩めた。ズボンの後ろポケットに入れてみたり、開いたり閉じたりして、手に馴染ませる。
美夜は雪にジャスミンの香りがするお香を渡した。
「前に、お香に凝ってるって言ってたなあって」
「覚えててくれたの?うれしい」
「皆さんの誕生日に、何も差し上げることが出来なかったので……。使ってくれると嬉しいです」
美夜がそういうと、二人は優しい眼差しを向け頷く。
「うん、早速明日から使うよ」
「私も。これ、良い香りねえ」
美夜と美月はお互い顔を見合わせ、嬉しそうに笑い合った。
「美夜、渡しておいでよ」
「うん」
美夜は厨房の入り口に立ち、光を呼んだ。
洗い物をしていた光は「ん?ちょっと待って」と手を止めて振り向く。
「今日は、ごちそうさまでした」
光は美夜に入ってくるよう促すと、丸椅子を二つ出した。
椅子に座りながら「美味しかった?」と美夜の顔を見上げる。
「はい。今日も変わらず、とっても美味しかったです」
美夜が答えると、光は花が咲く様に、柔らかく嬉しそうな笑みを浮かべた。
美夜は丸椅子に座り、自分の手元に視線を落とす。
「コウさん、これ」
大事そうに両手に抱えたプレゼントを、光に差し出した。
「なに?」
光は美夜から包みを受け取ると、不思議そうな顔をし「なんか、随分重いね」と言いながら振ろうとした。
「あ!だめ、振っちゃ!壊れちゃうから!」
美夜が慌てて止めると、光は驚いた顔で振ろうとした姿勢を止め、「開けて良い?」と訊く。
「はい、開けてみてください」
光は丁寧にテープを剥がすと、ゆっくりと包みを開けた。
箱の中には、硝子製の万華鏡が入っていた。
光は万華鏡を手に取り、興味津々に細部を見る。
「すげえ。ありがとう……」
ため息を漏らすような声で礼を言い、光は万華鏡の中を覗き込む。へえ、と声を上げ、頬を緩めた。
「ありがとう。嬉しいよ」
「一月の誕生日に、何も上げられなかったから……。それ、実は、私も美月に誕生日にもらって、お揃いなんです。私、硝子細工の物とか好きなんです。コウさんにも、気に入ってもらえたら嬉しいです」
美夜は少し俯き、恥ずかしそうに頬を指先で掻いた。
光は本心から「うれしいよ、本当に」と礼をいう。
「俺も、硝子細工が好きなんだ。特に、グラスとか何だけど」
「あ、以前、お家に上がらせて頂いたとき、リビングに飾ってあった……」
「そう。あれ、昔から少しずつ集めてたやつなんだ。自分の部屋に飾りきれなくて、あそこに置いてて」
「そうだったんですか……何だか嬉しいです」
光は万華鏡を丁寧に箱にしまった。
「栄さんのお家で、三人で暮らしてるんですか?」
「ん?そう。あの家は、もともとじいちゃん達の家で、ばあちゃんが時々使ってたんだけど。俺たちがここに店を出すって言ったとき、あの家を提供してくれたんだ」
「じゃあ、ここはコウさん達の地元なんですね」
「まあ、そんなとこ。ここには、中学まで住んでた。中学二年の頃、ちょっと離れたところに引っ越したけど。じいちゃんの店は昔、商店街の中にあったんだよ。だから、引っ越してもしょっちゅう遊びに来てたけど」
それを聞き、商店街の人達が栄や光を親しげに名前で呼ぶ理由が分かった。
子供の頃からここに住んでいたのだ。
「だからですか?商店街のお祭りの時、商店街から外れてるLisが、一緒に参加している理由……」
「そう。みんなが、俺たちの店を盛り上げてくれてて。普通なら、まだまだ売れなくて、今頃毎日暇な時間を過ごしてるはずだけど、周りのみんなに支えられて……。感謝してるよ。本当に。そのお返しって訳じゃないけど、出来る限り、商店街内で揃えられる物は、そこで仕入れてるんだ。それに、じいちゃんの時も、商店街のみんなの店で果物とか入れてたしね」
光は窓の外を見ながら、穏やかな表情で話しをしていた。その顔は、本当にこの街が好きなのだと伝わってくる程、安心しきった、くつろいだ表情だった。
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