第148話 スペシャルケーキプレート
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商店街を通ったときには、もう午後二時を過ぎていた。朝十時から歩き回った美夜は、久しぶりに一時間以上を歩いたせいか、全身がだるく、疲れはじめた。
二人は手を繋いでLisへ向かった。Lisに着くと、本屋をドア越しに覗いた。店内には、二人の客がそれぞれ本を探しており、カウンターには、背の低いスポーティーな格好をした青年が立っていた。短い髪の毛が、妙に新鮮に感じたのは、Lisの男性陣が長髪だからだろうかと、美夜は思った。
二階のカフェへ上がり、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ」と、栄と雪の声が響く。
二人はドアの前に立つ美夜を見て、瞬時に顔を輝かせた。
雪がすかさず美夜に近づくと、抱きついても良いかと聞き、美夜が小さく頷くと、雪は泣きそうな顔でゆっくりと美夜に抱きついた。その腕は力強く、温かかった。
栄は厨房へ入り、光を呼び出した。
慌てた様子で厨房から出てくる光に、美夜は一瞬驚きの表情をしたが、すぐに笑みを浮かべた。すると、光は美夜が以前、見惚れた輝く笑顔を見せ、美夜に近づいて来た。
雪は美夜から離れ、目尻をそっと拭う。
「良く来たね」
光が美夜の頭を優しく撫でると、美夜は、はにかむように微笑み、小さく頷いた。
「コウさんのお陰です。本当に、ありがとうございます」
光は柔らかい笑みを湛え美夜の手を取り、店内の中に入るよう促した。
喫茶には数名の客が静かにお茶の時間を楽しんでいる。
美夜と美月は、初めて二人で来たときに座った席に腰を下ろした。何も変わっていない店内は、美夜を優しく迎入れる。
しばらくすると、栄が水を持ってやって来た。
「今、コウが二人にスペシャルケーキプレートを作ってるから、暫く待っててね。お茶は紅茶でいいかな?セイロンでいいかな?」
「はい。それでお願いします」
「了解。じゃあ、ちょっと待っててね」
店内にはドビュッシーのベルガマスク組曲「月の光」が流れ出した。
美夜が大好きな曲だ。
月の光を紡いで出来たようなこの曲を聴いていると、水の中に浸かって、ゆったりと浮かんでいるような気分になり、身体の疲れが癒える気がするのだ。
「この曲、美夜ちゃん好きだったでしょう」
いつの間にか栄がテーブルの前に来ていた。
「お帰り。美夜ちゃん」
栄はそう言うと、テーブルに紅茶を置く。
次いで、栄の後ろに立っていた光が、二人の前にケーキをのせたプレートを置いた。
プレートにはケーキが三種類、グラスに入ったシャーベットが一種類乗っている。
チョコレートソースの上に淡いピンクと白のマーブル模様のイチゴのババロアが、そしてオレンジソースの上には、ドーム型をしたブリオッシュとメレンゲで作った真っ白なポロネーズ、粉砂糖の上に置かれたチーズケーキ。
真ん中にあるグラスの中には、ゆず味のシャーベットが入っていた。
「すごい、こんなに?」
美夜は頬を染めてプレートに見入った。
「食べられるでしょ?」
光は笑いながら言うと、美夜は光を見上げ、「ありがとう」と微笑んだ。
光は小さく顎を引き、厨房へ戻っていった。
二人は早速、ケーキを口に運んだ。
美夜はイチゴのババロアから、美月は白いポロネーズを一口食べた。
「美味しい!」
同時に声を上げ、二人は顔を見合わせ微笑んだ。
「私、ここのケーキなら、何でも食べられることが分かったよ」
本来、甘いものが苦手なはずだった美月が、そう言いながら美味しそうにケーキを食べ進めた。
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