第147話 一歩ずつ
明けましておめでとうございます。
年末3日間の更新マラソン、お付き合い頂き、ありがとうございました。何の予告もなく始まったので、驚かれたと思います。
今日から通常更新です。笑
本年もよろしくお願いします!
一月末から、東京では珍しく、時々ぱらぱらと降っていた雪が、二月に入った途端、大雪に変わった。
その降り方は極端で、全く降らない場所と電車が止まるほど降る場所と別れた。
幸い、美月の通勤範囲は自転車で行ける距離で、もちろん、歩きでも通える範囲だ。
朝、目を覚ますと、あまりの寒さに美月は布団を身体に巻き付け、窓の外を見た。
外は一面真っ白で、全てが同じ色をしていた。
空からは、止まり方を知らないのか、はたまた壊れたおもちゃの如く、薄いグレーがかった雲から、砂糖菓子のように白くふわふわした雪が降り続いていた。
勇気を振り絞り、服に着替え、部屋を出る。
キッチンから美味しそうな香りがしてきた。
美月はリビングへ行くと、テーブルの上に用意されている朝食を見た。
日本の朝を感じさせる、和食。
香ばしく焼けている焼き魚、綺麗に巻かれ、ふんわりとした厚焼き卵、山芋の浅漬け、筑前煮が並んでいる。
「おはよう、美月。今、お味噌汁出来るから」
キッチンに立っていた美夜が、美月に気が付き声をかけた。美夜は見るからにだいぶ落ち着き、夜もちゃんと眠れているようだった。
「おはよう、美夜。ありがとう。今、顔洗ってくる」
美月が再びリビングへ戻ると、白いご飯と豆腐とネギの味噌汁が並んでいた。
「食べよう」
美夜の言葉に美月は頷き、ラグの上に座る。
「すごい雪だけど、仕事休めないの?」
美夜は曇った窓硝子を見ながら言った。
「うん。多分、他の人が来られないだろうから」
「そう。気をつけてね。滑って怪我しないように」
「うん。ありがとう」
美月はご飯を食べ終わると、すぐに出掛ける準備をした。
玄関で長靴を出している美月に、美夜が声をかけた。振り向くと、美夜は「今度、Lisに行こうと思う」と、小さな声で言った。
「美夜……」
美月は不安そうな顔で美夜を見つめだが、美夜は小さく微笑み「大丈夫」と視線を下に降ろした。
「だいぶ、落ち着いてきたし。そろそろ、私も働かなきゃ」
そう言った美夜の顔は、自分に「大丈夫」と言い聞かせるような、少し硬い表情だった。
美月はその意志を尊重することにした。
「分かった」と頷き、長靴を履いて「じゃあ、行ってきます」と玄関を出て行った。
「いってらっしゃい」
美夜の見送る優しい声が、美夜の背中に当たった。
*******
美夜がLisへ行くと言ってから三日後。
大雪だった事が、嘘のように跡形もなく消えていた。一日中、日の当たらない場所には、少し残ってはいたが、それも今日、明日中には消えるだろうという量だ。
美夜は美月と共に、バス停へ向かった。
事件現場近くに来ると、美夜は美月の手を取った。美月は美夜の微かに震える冷たい手を、しっかりと握り、その場を足早に通った。
事件現場の空き地は、たった数ヶ月で家が建っていた。
今では、あの薄暗さはどこにもなく、全く違う風景に見え、かえって美夜の精神的負担が減り、幾分歩きやすくなっていた。
二人はLisへ行く前に、買い物をしてから行く事にした。
美夜にとって、事件以来、初めての遠出だ。
美月は不安で、心配で仕方なかったが、通勤時間を過ぎた車内は人も少なく、美夜も落ち着いている。
美夜は美月が以前、誕生日にくれた万華鏡を買った店に連れて行って欲しいと言った。
なぜ、急にそんな事を言い出したのか、美月には分からなかったが、それでも美夜が外へ出ようと決心したのだから、その決心を無駄にしないためにも、連れて行く事にした。何かあった場合、自分が一緒だから絶対に大丈夫だと、何度も自分の心に言い聞かせて。
美夜は自分と揃いの万華鏡を一つ買うと、贈り物用に包装してもらった。
そして、美月に栄の誕生日を知っているか訊ねた。
「確か、前にちょっと話した事があったっけ……いつだったかな。確か十月の筈だよ」
「十月か……だいぶ過ぎちゃったね。プレゼントのお返し、しなきゃいけないし。美月、栄さんには何が良いと思う?」
美月は腕を組んで考え込んだ。栄が好きだと言っていた物を、記憶の中から探し出す。
「ああ、そう言えば、前に財布が欲しいって言ってた。でも、まだ使えるから買うのもなあって言ってたっけ」
「じゃあ、財布を探そうよ」
「うん」
二人は館内の数店舗にポイントを絞り、さくさくと探していった。
どこの物もぱっとせず、諦めかけているときだった。最後に入った店のディスプレイに、栄に似合いそうな財布があった。
二人はそれを購入すると、その足でLisへ向かった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




