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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
7 日常をきみと

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第146話 優しい人たち

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 年の瀬も迫った頃、美夜は光と共に、家から少し離れた場所まで出ることが出来るようになっていた。

 クリスマスを過ぎると、再び光は毎日の様に美夜の元を訪れた。


 初めの頃は、昼間でも怖くて足が竦み、一歩が踏み出せなかったが、光が繋いでくれる大きく温かい手が、美夜に勇気を与えた。


 美月は光に礼を言い足りないぐらい、何度も感謝の言葉を伝えた。その度、光は何も答えず、ただ優しく微笑み、美月の頭をぽんぽんと軽く撫でた。

 暗い所は今でも怖がる為、今年は田舎に帰ることを断念した。朝早くでは辺りがまだ暗く、昼に出ると、田舎に着く頃には暗くなってしまうためだ。

 美夜は美月だけでも帰るように何度も言ったが、美月は頑として帰ろうとはしなかった。

 二人は両親に謝りの電話を掛けた。美夜の仕事が立て込んでるとか、美月に絵の注文が入り、その締め切りが間に合わないだのと、嘘を並べ、何とか帰れない事を納得し、了解してもらえた。



 インターフォンが鳴り、美月は「コウだ」と言って、玄関へ向かった。

 ドアを開けると、光と栄が立っていた。

 美月は一瞬、顔を強張らせると、光を見た。


「中西に、謝りたいって……。いいかな、少し」


 美月は黙ってドアを開き、光と栄を部屋に上げた。

 栄は光の後に続いてリビングに入ると、ラグの上に座った美夜を見て微かに顔を歪めた。

 美夜は驚いたように、大きな瞳で栄を見上げていた。

 栄はその場に膝をつくと、土下座をし謝った。


「本当に、申し訳ございませんでした」


「ちょ、ハルさん、止めてください、顔を上げてください」


 美夜は慌てて栄に歩み寄り、土下座を辞めさせようとした。


「本当に、申し訳なかった。あの時、俺が大人げなく取り乱して……。君を先にタクシーに乗せて帰らせれば良かったんだ……。今更、謝って後悔しても、遅いことは分かってる。でも、本当に、申し訳なかった」 


 美夜がどんなに腕を掴んでも、栄は一向に面を上げようとはしなかった。

 美夜は「もう、大丈夫ですから」と、何度も言い、「お願いですから、顔を上げてください」と、栄の両肩に手を置いた。

 栄はゆっくり身体を起こすと、涙で滲んだ瞳を美夜に向けた。

 美夜は小さく微笑むと「ありがとうございます」と言った。


「ずっと、心配してくださって居たんですよね。ありがとうございます。私、コウさんのお陰で、だいぶ外に出られるようになったんです。私の方こそ、謝らなくちゃいけないんです……。忙しい時期に、仕事に行けない所か、みなさんに心配かけて、コウさんには毎日のように来ていただいて……。本当に、お二人には何と言ったらいいのか……」


 美夜は、正座をした足の上に置いた自分の手を、じっと見つめた。


「私、正直言って、今はまだ、お店の方まで一人で行く自信が無いんです……。でも、このままじゃ駄目だって、自分でも分かっているんです。……もう少し、時間をいただけませんか……。私、Lisが好きなんです。辞めたくないんです……。我が侭だって、分かってます。だからって、他の方を雇わないでくれって言うんじゃないんです。いつか、人手が沢山必要になった時、募集をする時は……。その時までには、一人で歩けるように努力します。だから……」


「大丈夫だよ」


 必死にお願いをする美夜に、栄はそっと微笑んだ。


「大丈夫。君が一人で歩ける様になるまで、俺たちは君の場所を空けて待ってる。確かに、今は他の人を雇ってはいるけど、厨房にはコウ一人なんだ。だから、一日でも早く元気になって、コウを手伝ってあげて欲しい」


 美夜は目の奥が熱くなった。眉を微かに動かし、顎を引いた。


「最近、客も増えてきたし、定着しだしてるんだと思う。全体的に作る量が増え始めているんだ。俺も、中西の手が欲しい。待ってるけど、焦ることはないから。自分のペースで、前みたいに手伝ってくれ」


 美夜は頷きながら俯いた。手に甲に、いくつもの涙が落ちていった。

 美月が困ったように微笑み、「ほら、泣いてちゃ駄目じゃん」とティッシュを美夜に渡した。 


「こんな優しい人達、他に居ないよ?普通は首になっちゃうんだよ?ほら、泣いてないで、お礼言わなきゃ。よろしくお願いしますって、言わなきゃ」


 美月は泣き笑いしながら、美夜の隣で正座をした。


「ほら、お礼言うよ」と言うと、二人は同時に手をつき、頭を下げた。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 綺麗に揃った声は、一つの音のようだった。 

 それは、普段、気にした事がなかった二人の声質が、よく似ていることを感じさせる。

 やっぱり双子なんだな、と栄は思った。そして、自分も改めて手をつくと、光を横に正座させ、「せえの」と言い、頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」と、栄が言うと、光は短く「よろしく」と言った。


「お前、揃えなさいよ」


「何でだよ」 


「双子のシンクロに負けないくらいのハモりを聞かせてあげなきゃ。こう言う時は、歳の離れた兄弟だって出来るところを見せなきゃだな……」


「意味がわかんねぇよ」


 美夜と美月は顔を上げると、顔を見合わせ小さく笑った。

 美夜の笑顔はまだ堅さがあり、本来の笑い顔ではない。栄や光、何より、美月に心配かけまいと、精一杯、今の自分が出来る限りの笑顔を見せていた。それでも、きっとまたあの明るい笑顔を見せてくれる。栄は、美月と美夜の微笑みを見ながら、一日も早くその日が来ることを、心から祈った。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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