表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
6 不穏な気配

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/201

第144話 トンネルの向こう側

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 ここでこうして美夜に話しかけるようになって、三週間が経過した。


 毎日、今日こそは、美夜の顔を見たい、と思いながら、この場に座る。

 美夜が惹かれる話題はないか、口下手な光が必死に考えている。


「中西。中西が考えたハロウィンのケーキ、売れてるよ。カボチャのモンブラン。栗より売れ行きが良い」


 光は低く響く声で話しかけた。


「本屋の方も、臨時バイトを雇ったから、心配はいらないよ。栄の友達の弟なんだけど、すごく変なやつなんだ……。アメリカに短期留学してて、帰ってきたばっかりなんだ。英語かぶれしてて、言葉にいちいち英語が入る。しかも使い方間違ってたりして、時々雪さんがうんざりした顔で小言言ってる」



 美夜はベッドの上で膝を抱えていた。

 光の優しく響く声に、じっと耳を澄ましていると、不思議と心が落ち着き、不安や恐怖は消えていった。

 雪の名前を聞き、うんざりしている顔を思い出す。美夜はそっと微笑んだ。


「そうだ。今日持ってきたケーキは、中西が知らないやつだよ。うちでは冬の定番だけど。イチジクのタルト。タケさんが良いイチジクを入れてくれたんだ。今日から売り出してる」


 光はケーキの入った箱を開けた。イチジクのタルトが二個入っている。美夜と美月の分のつもりで持ってきた。しかし……。

 光はじっとケーキを見つめると、顔を上げて「中西」と呼びかけた。


「俺、今日昼飯食ってないんだ。これ、俺が今から食べてもいい?」


 耳を澄ましたが、美夜の部屋からは、何の音も聞こえない。

 光は立ち上がりキッチンへ行き、フォークを探した。引き出しを開け、フォークを二本手に取ると、再び美夜の部屋の前に行き、胡座をかいて座る。


「じゃあ、いただきます」と少し大きめの声で言う。ケーキの一つにフォークを刺し、一口口に運んだ。


「旨い」


 我ながら良くできた、イチジクも旨いと、本気で思った。

 光が再びフォークで食べようとすると、寄りかかっていたドアが後ろに下がった気がした。

 光は身を捩り振り返る。ドアが少し空いているのを見て、光は少し腰を浮かせた。

 ドアの隙間から、美夜が顔を出した。

 少し痩せたのか、化粧をしていないからか、光が知っている美夜よりも、ほっそりとして見えた。

 光はそっと微笑むと、ケーキの箱を持って立ち上がった。

 美夜はドアを半分ほど開けて、目の前に立つ光を、恐る恐る見上げている。

 光はそんな美夜に優しく微笑みかけた。美夜はきちんと服を着て、肩に掛かる髪は、両サイドを後ろで纏めている。


「食べる?」


 光は優しく訊ねた。

 美夜は光の手元にあるケーキを見て、小さく頷いた。光は再びその場に座ると、美夜も同様にその場に座った。美夜は、光が差し出したフォークを手に取り、一口口に運んだ。

 光はその様子を黙って見つめる。美夜の口角がそっと上がった。


「……おいし……」


 消えそうな小さな声を、光の耳はしっかり捉えていた。

 光は「うん」と頷くと、ケーキを口に運んだ。


「明日はシチュー作ってきてやるよ」


 光の言葉に、美夜は顔を少し上げた。

 光がにっこりと微笑むと、その場が明るく見えた。美夜はその笑顔に釣られるようにして、ぎこちなく小さく微笑んだ。

 光は久しぶりに見る美夜の顔を、愛おしそうに見つめる。たった数週間が、何年もかかったように思えた。何年も掛けて、やっと美夜の笑顔が見られた気がした。


 ああ、そうか、暗闇にいたのは、自分も同じだったんだ、と光は感じた。自分の暗闇は、栄程ではないが、自分もトンネルの入り口で立ち止まっていると思っていた。だが、いつの間にか、トンネルの中を歩いていたのだと、自覚する。

 久しぶりに見た世界は、温かい光で溢れているように見えて、眩しかった。


 この光の中を歩くなら、自分一人じゃなくて、美夜と一緒がいい。そう、思った。


 美月の言う、明るい場所へ、二人で足を踏み入れよう。

 その為なら、自分はいくらでも時間を掛けて、美夜の手を取り、引き上げよう。だから、暗闇から抜け出せた時は、あの満面な笑みを、自分に見せて欲しい、と心から思った。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あら、光、美夜にほの字でしょうか!いいですねぇ!
2022/12/31 22:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ