第142話 美月の願い
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警察と話しをするだけでも、美夜はパニックを起こし、泣き叫んだ。
その日の夜、美夜は目を瞑る度、その光景が目の前に浮かぶのか、何度も起き上がってはトイレに駆け込み、嘔吐をした。
翌日、病院と警察へ行かなくてはいけなかったが、アパートの下から先、足が動かなかった。
震え、その場にしゃがみ込んだ。
美月はアパートの下までタクシーを呼び、タクシーで全てを回った。タクシーに乗る際も、わざと遠回りをしてもらった。
「それで……その……」
光は訊きづらそうに言い淀んだ。
「大丈夫。犯されてないよ。その直前に私が来たからね」
美月は光の言葉を読み取って答えると、光は「そうか」と呟き、小さく息を吐き出した。
「とはいえ、その一歩手前までされてるから……美夜にとっては、同じ事だよ」
美月の言葉に、光は頭の中が真っ白になるような、何も考えられない状態になる。美夜を思うと、握り締めた拳が震える。
「そんなだからさ、まだ、人とまともに話せる状態じゃないんだ」
美月がそう言うと、光は「うん」と頷いた。
「それでも、また来るよ……。いいかな?」
その問いに、美月は一瞬考える様に黙ったが、「うん。お願い」と応えた。
「ところで、お姉さん、仕事はどうしてるの?」
光はふと思った事を訊ねた。美月は両腕を上に引き上げ、大きく伸びるように身体を反らす。
「店長に事情を説明して、一週間だけだけど、休みをもらったんだ」
「そう。一週間後は、中西は一人であの部屋に?」
「うん……。本当は、田舎に帰らせようと思ったんだけど、両親に知らせる事を嫌がってね……。それに、今はまだ、まともに外にも出られないし……」
「そうか……」
二人は立ち上がると、来た道を戻って行った。
アパートの前に着くと、美月は「じゃあ」と光に言った。その顔は、ほんの少し軟らかい表情をしている。
「うん。……来週、来ても良いかな?」
光は不安そうに美月を見る。美月は小さく微笑むと「うん」と頷いた。
「本当、言うとね。美夜、ずっとLisの事、気にしてるんだよ。荷物届けに行ったのも、美夜が何度も言うから……。コウの手伝いできない事や、本屋の事や」
光は自分の足下に視線を降ろすと、すぐに顔を上げた。
「今度来るときは、中西が好きな菓子を持ってくるよ」
その言葉に美月は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑い「うん。お願い」と応えた。
「うん。じゃあ、また来週」
「じゃ」
光は美月に背を向けゆっくり歩き出した。
「コウ!」
光は振り向き、美月を見た。
「美夜を……。美夜をお願い。あんただけなんだ。今の美夜を、明るい方へ手を引っ張る事が出来るのは……お願い……」
美月は泣きそうな顔で言った。
光は戸惑うように視線を泳がせたが、決意したように美月を真っ直ぐに見た。そして、一度だけ力強く頷くと、再び正面を向き歩き出した。
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