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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
6 不穏な気配

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142/201

第141話 あの日の出来事

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 翌日、光は栄に訊いた道順を辿り、美夜の家の玄関前に来ていた。


 栄が行くと言ったが、それを制してやってきた。昨日の美月の様子からして、栄では話も出来ないであろうと思ったからだ。


 インターフォンを一度押す。

 暫くして、美月の声が聞こえた。

 光は「L i s沖田です」と一言。美月からは何の返事もなかった。もう一度、インターフォンを押そう指を伸ばすと、ドアが開いた。


「ちょっと、待ってて」


 美月は低い声でそれだけ言うと、ドアを閉めた。

 暫くして、パーカーを羽織った美月が出てきた。

 玄関のドアに鍵を閉めると、「来て」と短く言う。

 光は黙って美月の後に続く。暫く歩くと、美月が口を開いた。


「栄と里々衣、どうなの?」


 光は何も答えず美月の横顔を見た。


「美夜がさ、何度も言うんだよ……。でも、何のことか意味が分からないんだ。栄に何があったのか、あの日のことを聞こうとすると、一番最初に事件のことを思い出すらしくて、パニックを起こすんだ……」


 光は地面に視線を降ろすと、静かな声で答えた。


「あの日、里々衣が保育園の階段から落ちて、怪我をしたんだ。保育園の先生もパニック起こしてて、電話口では大事になっていて……。頭から血を流しててって言われて、俺は急いで保育士さんに言われた病院へ向かおうとして……ハルに電話したけど、繋がらないから、雪さんに連絡してハルに電話するように言って……。それでハルは彼女を送ることが出来なかったんだ……。ごめん」


 美月は立ち止まり、光の顔を見上げた。


「里々衣は?大丈夫なの?」


「うん。出血が多かった割に、小さな傷でね。今は元気に走り回ってるよ」


 それを聞いた美月は、心底ほっとしたように「そう」と息と共に吐き出す。

 二人は再び歩き出すと、住宅街の中にある小さな公園に来た。昼のせいか、誰も居ない静かな公園だ。

 二人は並んでベンチに座った。

 紅葉しかけている木の葉の間から、秋の日差しが降り注いでいる。


「里々衣はね」


 光はぽつりと話し始めた。その声は、耳を澄ましていないと、聞き逃すのではと言うほど、静かで、ゆったりしている。


「栄にとって、亡くなった奥さんの残した、唯一の宝物なんだ……。どんなことがあっても、守らなきゃいけなくてね……。それは、俺も同じ……」


 美月は正面にあるブランコを見つめたまま、光の声に耳を傾けていた。


「昨日、栄が言った『よかった』って言う言葉はね、中西が生きていた事を指した言葉なんだ……。決して、お姉さんが思ってる意味では無いんだよ」


 光の声は、諭すように優しく響いた。美月はブランコから視線をずらし、瞬きを繰り返した。


「栄の奥さんはね……。通り魔に殺されたんだ」


 美月はピクリと身体を動かしたきり、言葉の意味を理解出来ないかの様に、硬直したまま動かなかった。


「それには……俺にも原因があるんだ……。俺が留学してなければ、俺が一度でも帰ってきていたら……俺が少しでも早く気が付いていたら……」


 光は独り言のように、うつろな表情で口の中で呟いた。

 美月は光の言っている意味が分からず、ゆっくりと光に顔を向けた。

 光の長い前髪が、表情を隠しよく見えない。真っ直ぐ顔を上げた横顔は、口を閉じ、白い肌は少し赤みを差している。すると、すっと一筋の涙がこぼれ落ち、光のジーンズの上に落ちた。


 美月は微かに目を見開き、顔を背けた。

 光は手の甲で涙を拭うと、少し詰まった声で美月に美夜の様子を訊いた。美月は顔を正面に向けたまま、美夜の様子を話し始めた。




 あの晩、美月が駆けつけたとき、男が美夜の上に覆い被さろうとしていた。美月は手に持っていたスマホを、男目掛けて投げつけた。スマホは見事、男の頭に当たったが、男は美月を見るなり、美夜から離れ駆けだした。

 美月は全速力で男を追ったが、角に止めていたらしいバイクで男は逃走した。せめてナンバーだけでも記憶をしようと、必死に追いかけたが、バイクは美月を嘲笑うかのようにスピードを上げ、美月は追いつく事ができなかった。


 バイクを諦め、美月は急いで美夜の元へ戻った。

 美夜は起き上がり、震え蹲っていた。髪も着ていた服もボロボロになり、見るに堪えなかった。

 美月が近寄り、肩に触れた途端、大声で泣き叫び、美月であることも気が付かないのか、何度名前を呼んでも暴れ、美月の頬を引っ掻いた。

 美月は必死に美夜をの名前を呼び、落ち着かせた。

 ようやく落ち着いた美夜は、恐怖におののいた様に強張った顔で美月を見た。

 美月の顔が、ようやく目の中に入った途端、顔を崩し泣きじゃくる。美月は美夜に自分が来ていてパーカーを羽織らせ、肩を抱いて家に連れ帰った。その間、誰も通るどころか、家から出てくる者さえいなかった。


 美月は唇を強く噛み、怒りで震える足を、一歩ずつ踏みしめるように前に進んだ。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 美夜の気持ちは多分癒すのはかなり難しいでしょうね…怖かったでしょうし、トラウマになるでしょうし…。彼女も、実質百合と同じように死んでしまったようなものかもしれませんね…胸が痛みます。少しずつ…
2022/12/31 19:24 退会済み
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