第13話 同業者
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
少し長くなってしまいました……。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」
美夜が高揚した顔でギャルソンに言うと、ギャルソンは柔らかい笑顔を美夜に向け「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
「あの、ケーキのテイクアウトって、出来ますか?」
美夜は財布を出しながら訊ねる。
「もちろん、出来ますよ」
「じゃあ、チーズケーキを一つ、お願いできますか?姉のお土産にしたいんです」
「かしこまりました。お持ち歩き時間は、どのくらいですか?」
「夕飯の買い物をして帰るので、一時間くらいで」
「かしこまりました。準備しますので、少々お待ち下さい。お先に、お会計を……」
会計を済ませると、美夜は店内に飾られている写真を見て歩いた。
「お待たせいたしました」
美夜が夢中で写真を見ていると、ギャルソンがケーキの入った箱を手提げ袋に入れて美夜の隣に立っていた。
「あ、ごめんなさい、ありがとうございます」
ギャルソンはにこりと微笑むと、美夜が夢中で見ていた写真に目を向ける。
「この写真は、どの辺りの国なんですか?」
「ここに飾ってあるものは、全てギリシャです。この店も、ギリシャの建物をイメージして建てられて居るんですよ。でも、残念ながら、当店ではギリシャ料理は扱っていないのですがね」
ギャルソンは眉を上げ言ったが、すぐに
「あ、でも、チーズケーキはギリシャ物だ」
と、思い出したように言い、笑った。
美夜は「そうですね」と笑うと、
「あ、あと、おまけに付けていただいた、シャーベットも、元々はギリシャ物ですよね。あ!味もヨーグルトもギリシャ物ですね」
と言い、再び写真に目を向けた。
ギャルソンは微かに首をかしげ、美夜の横顔をちらりと見る。美夜は写真の風景に見とれるように「綺麗な風景ですね」と、溜め息混じりに呟く。ギャルソンは、写真に目を移し、
「ええ。実際の風景は、この何倍も綺麗ですよ」
と、懐かしそうに言った。
美夜はギャルソンの横顔をじっと見つめた。整った横顔はどこか儚げで、焦げ茶色の柔らかくウェーブのかかった髪が、大人の色香を漂わせている。
「また、来ても良いですか?」
ギャルソンは少々驚いた顔で美夜を見ると、すぐに「もちろん」と、うれしそうな笑顔を見せた。その笑顔は、先ほどまでの接客用の笑顔とは異なり、幼ささえ感じさせる柔らかい笑顔だ。美夜も釣られて笑いなが、ケーキを受け取る。
「ごちそうさまでした」
ドアに着いた鈴が鳴る。ギャルソンは美夜の後ろ姿に「ありがとうございます」と声をかけると、暫くその場で腕を組んで立っていた。
「……ついに、同業者の偵察が来るようになった……か?ふむ。まあ、いいか」
くるりと向きを変え、店内へ足を向ける。何事も無かったように鼻歌を歌いながら、美夜の食べた食器を片付けた。
美夜が店を出ると、外は真っ暗で、良く輝く星がいくつか見えた。一階の本屋は既に閉店している。蛇腹式の網状シャッターが、いかにも海外の店を連想させ、その徹底ぶりが、美夜は気に入った。店内はまだ電気が付いていて、シャッターの間から店内を見ると、先ほど接客をしてくれた青年が、店内の掃除をしていた。
「いいな、ここ……」
美夜は壁に取り付けられた看板に目をやる。
看板には「Books & Cafe Lis」と書かれて、百合の花のイラストが描かれていた。
美夜は商店街で買い物をして、家路についた。
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