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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
6 不穏な気配

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第138話 予感

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 店を出る頃には、二人はくたくたになっていた。


「買い物って、疲れますね」


「疲れるねえ」


 栄は本当に疲れた様子で答えた。

 電車に乗り込んですぐ、栄のスマホが鳴った。バイブレーションの振動音が、妙に大きく聞こえる。

 栄はスマホを取り出すと、ディスプレイを見て「ああ、駄目だ。電話だ」と言い、スマホを仕舞った。しかし、電話は切れることなく鳴り続けた。 

 美夜の耳には、まるで悲鳴を上げるように、必死に栄を呼んでいる様に聞こえた。


「大丈夫ですか?何だか随分長くなっていますけど……」


「うん……。雪さんからなんだけどねえ……。次で降りるし、降りたら掛け直してみるよ」


 栄はドアに寄りかかり、窓の外を眺めた。

 電話の振動音が途切れると、美夜は妙に胸騒ぎがした。それは、栄も同様だったようで、窓の外を見ながら、落ち着かない様子で指先をドアにこつこつと当てていた。

 乗り継ぎの駅に着くと、栄は電車を降りて雪に電話を掛けた。

 雪はすぐに電話に出たようで、栄は「ああ、雪さん?」とにこやかに話しを始めた。だが、その顔から、すぐに笑顔は消えた。

 見る見るうちに顔色が悪くなるのが、美夜にも分かった。

 何度も瞬きを繰り返し、上擦った声で返事をし、スマホを持つ手が微かに震えていた。

 電話を切ると、栄は強張った顔で必死に立っているように見えた。


「ハルさん?どうしたんですか?大丈夫ですか?」


「早く……」


「え?」


「早く、帰らなきゃ……」


 そう言うと、栄は荷物を持って大股で歩き出した。

 美夜は荷物を持ち直すと、急いで小走りで付いていった。


「ハルさん、ハルさん?」


 乗り継ぎの電車に乗ると、栄の顔は相変わらず青白い顔をしている。


「ハルさん、教えてください。一体何があったんですか?」


 栄はやっと美夜に気が付いたのか、目を大きく開いた。


「美夜ちゃん……」


 そう言うと、眉を顰めた。


 あ、泣く……美夜は心の中で呟いた。


 しかし、栄は泣くことはなかった。ただただ、美夜を見つめ、口を微かに動かした。やっとの思いで振り絞った声は、栄の声ではないように弱々しく、擦れている。


「り、里々衣が……階段の上から、落ちて……」


「え!」


 美夜は目を見開き栄の顔を見た。


「頭から、落ちたらしくて……血が……」


「それで、里々衣ちゃんは?今どうしてるんですか?」


「保育園から、電話がコウに……。病院へ行ったって……」


「ハルさん、落ち着いてください。大丈夫。絶対大丈夫ですから!」


 今にもしゃがみ込みそうな、栄の丸まった背中を、美夜は身体を温めるかのようにさすった。

 その時の栄は、かろうじて立っていられる様な状態だった。

 やっと地元の駅に着くと、美夜は雪のスマホに電話を掛けた。雪も取り乱してはいたが、栄程ではない。

 美夜は病院の名前を聞き、栄の腕を掴み、タクシーに押し込んだ。タクシーの運転手に病院名を伝え、美夜はタクシーから離れる。

 立ち去るタクシーを見送ると、美夜は荷物を持ち直した。栄が持っていた分の買い物袋も、タクシーに乗せる時に美夜が栄の手から取ったのだ。あの様子では、きっとどこかに忘れるだろうと感じたからだ。一気に両手がずっしり重たくなる。

 美夜は小さく息を吐き出し、丁度来ていてバスに乗り込んだ。


 今日は商店街で買い物は無しにしようと考えながら、日が落ちるのが早くなった外を眺めた。インディゴブルーの空を見つめながら、里々衣の事、栄の事を思い浮かべ「大丈夫……」自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。


 最寄りのバス停に着くと、美夜は荷物を持ち直し、アパートまでの道をゆっくり歩いた。

 荷物が重いせいか、それとも気が気でなく、心配で足が重いのか分からなからない。

 ゆっくり慣れた道を歩く。

 静かな住宅街の角を曲がると、最近家を取り壊した場所がある。


 薄暗い道を歩く。


 なぜか、とても嫌な予感がした。背筋に冷たい水が落ちたように、ビクリとする。

 ふと、雪の言葉を思い出す。



『変質者が出たんですって。……本当に気をつけて帰ってね』



 美夜は背後に、嫌な気配を感じた。はっと息を飲み振り向くと、一瞬で視界が暗くなった。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 以前穏やか日々、と書きましたが、この言葉は撤回しなくてはなりませんね…りりいちゃんの出来事は穏やかじゃないですよ…転落からの出血、一体どうなってしまうのでしょう…!
2022/12/31 19:18 退会済み
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