第137話 江戸の街
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夏以降、美夜は普通に栄の話をするようになった。それ以前は、今思えば、栄の話しは避けていたように感じた。
光と食べ歩きに行ったり、雪と買い物に出掛けたり、もちろん、栄と出掛けることもあった。だが、以前のように、服を散らかし、食事をしなくなり、ということは無くなった。
美月も特別、栄に気を遣うことも無く、普段通りに接していた。栄と話しをするのは楽しいし、なぜか安心したのだ。
「当分、Lisに行かない方がいいかなあ……」
美月はテーブルに頬杖をつきながら、独り言のように呟く。
「どうして?」
「ほら、車小さいじゃん」
「美月と一緒なら、歩いて帰れるよ」
「そっか」
「そうだよ」
美夜は当然のように口にしたが、美月はどうもそうは行かないような気がしてならない。
たいして距離がある訳でもないのに、みんなで執拗に送ってもらう事を進めるには、きっとなにか理由があるのだと感じた。
美月はやはり、当分は夕方に行くことは控えようと思った。ただ、一つ、心を揺すぶらせるのは、里々衣に会えなくなる事だけだったが、我慢しよう、少しの間だ、と自分に言い聞かせた。
*******
電車を何本か乗り継ぎ、浅草橋駅に到着すると、美夜は妙に落ち着かなくなった。
「美夜ちゃん、そんなにきょろきょろしてたら迷子になるよ」
栄は苦笑しながら美夜の脇を歩く。
「栄さん、雷門が無いんですけど、ここ、本当に浅草ですか?」
栄は辺りを見回す美夜を、かわいいなあと思いながら「ここには無いよ」と答えた。
「雷門があるのは、ここじゃなくて、浅草って都営地下鉄線の方の駅だよ。ここは浅草橋。帰りに寄っていく?って言っても、多分帰りは荷物が重たくて、行く気がなくなるかも知れないけど」
「ああ、ここじゃないんですか……。今日は良いです。今度、美月と遊びに行ってみます」
「うん。そうすると良いよ。五月には三社祭とかあるし、時期が良いときに行くといい。これからの時期なら、十一月に酉の市があるよ」
「酉の市?」
「十干、十二支のやつだよ。酉の日は十一月に限らず、十二日ごとに来るんだけど、浅草の『酉の市』は十一月の酉の日に行われる、古い祭りなんだ。その時、熊手を売るんだよ。まあ、祭りじゃなくても、人力車に乗ったり、色々楽しめるよ」
「へえ。なんか、毎日お祭りみたいだって、友達に聞いたんですけど。それじゃあ、お祭りの時は、そうとうな人が来るんでしょうねえ」
「うん。ああ、あと、何曜日だったかな。仲店のお店が休みの時があるんだ。その時は静かだけどね」
「そうなんですか。じゃあ、その辺は調べて行かなきゃ駄目ですね」
そうこう話しているうちに、あっという間にラッピング商品が置いてある卸問屋に着いた。
栄と美夜はハロウィン用の飾りや、光のリクエストである袋類を購入した。
大きな建物は、一階から八階まであらゆる商品が置いてあり、すぐ隣には別の建物で一階から五階まで隣の建物同様、様々な商品が販売されている。
美夜は、ただ歩くだけで目が回った。種類も豊富で、金額も様々。その中から、これ、と言うものを選ぶのは、なかなか難しい。
「田舎では、こんなに選択肢がないから迷うことはなかったんですけど……。これだけあると、流石に悩みますね」
「そうだね。でも、これでもまだ少ない方だと思うよ。もう少し早く来ていたら、もっと色んな種類があったと思うよ」
「東京って、計り知れないですね……」
美夜の言葉に栄は店内中に響くほど大きな声で笑った。
静かに買い物をしている他の客が、怪訝そうに栄と美夜を見てくる。
美夜は恥ずかしくなって栄から少しずつ離れていった。
「こらこら、どこ行くの」
栄は美夜がじりじりと離れるのを見て、笑いながらも引き留めた。
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