第134話 仲直り
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栄と百合は、チェックインカウンターに向かった光の背中を見つめていた。
空港に着いた時よりは、幾分か背筋が真っ直ぐしていたが、相変わらず足下は心許ない、気怠そうな歩き方をしている感じがした。そんな光の後ろ姿を見ていた百合が、不意に小さく笑い声を上げる。
「なに?思い出し笑い?気持ち悪いなあ」
栄は笑いながら百合を見る。百合は軽く栄を睨み付け、「あら、ちょっと寝たら随分と元気になったのね」と言い、意地悪く微笑んだ。
栄は口角を下げて、「すいません」と顎を突き出すと、百合はその顔を見て笑った。
再び光に目を向けたが、光の姿は既に人混みで見えなくなっていた。
無事に中に入れたようだと分かると、二人は無言で駐車場へ向かった。車に乗り込むと、栄は運転席に座った百合に頭を下げた。
「この度は、色々とお世話になりました」
百合は「どういたしまして」と、声を上げて笑う。カラッとした晴れやかな笑い声。光の笑顔と、また違う輝きを放つ。その笑い声が栄は好きだった。
「良かったじゃない、仲直りできて」
その言葉に、栄は素直に「うん」と返事をする。
「何年か振りに、コウの笑った顔が見られた。本当に、嬉しかったよ」
栄は微笑みながら言った。
その笑みは、幸せな時間を思い起こすように、うっとりとしたものだった。百合はその顔を見て「ふうん」と嬉しそうに頷く。
「なに?」
栄が百合に顔を向けると、百合は笑いながら「べっつにぃ」と言い、アクセルを踏み込む。
「だから!運転、もう少し丁寧にした方が良いって」
栄は心なしか不安そうな顔で、慌てて言う。
「知らなかった!」
「え?」
百合は嬉しそうに声を上げ、笑っている。
「何を?」
「そういう顔も出来るんだね、ハル君。初めて見た。光君効果か。光君の言う通り!ハル君の笑顔は、みんなを元気にさせるね」
百合は顔を綻ばせる。その横顔を見て、栄は何も返すことが出来ず、ひたすら恥ずかしい気持ちになった。それを知られたくなくて、顔を窓に向けたが。
「耳まで赤い」
茶化すように言う百合に「うるさいなあ」と、栄は文句を言った。窓の外を見る栄の顔は、言葉とは裏腹に、優しい笑みを浮かべていた。
もう自分達兄弟は、この先何があっても大丈夫だと、そう思える自分に、腹の奥底から喜びが湧いてくる。泣きたくなるような、笑いたくなるような。止めることが出来ない、どうしようもない衝動。この感情に名前があるとするなら、何と呼ぶのだろう。きっと、どんな哲学者であろうと、この胸の内を言い当てることなど、出来ないであろうと、栄は空を見ながら思っていた。
車窓の上の空には、一機の飛行機が飛んでいる。
あれに光が乗っているか分からないが、栄は心の中で「気を付けて行ってこい。更に逞しくなって帰るのを待ってるぞ」と、語りかけた。
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