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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
5 沖田兄弟の過去

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第133話 百合さん

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 栄は俯き、微かに肩を揺らしていた。


「……悪かった」


「え?」光は困惑した顔で、肩を震わす栄を見た。微かに漏れ聞こえる嗚咽に、光は栄の隣に回ると背中を摩る。


「ずっと、お前に気がつかない振りをしていたんだ……」


「……」 


「百合に……岸本さんに聞いたよ。全部……」


 光は黙ったまま、栄の話しを聞いた。


「お前が、母さんに宛てた手紙も、全部読んだ。俺は……ずっと勘違いをしていた。お前は、何の苦労もなくて、気楽で、自由な奴で……何も分かっていない。そう思ってた。自分には、何も関係ないって顔で生きているお前が、ずっと羨ましかった。でも、本当はそうじゃなかったんだよな」


 栄は顔を上げ、光を見る。

 眉を八の字に歪め、真っ赤になった瞳からは、幾筋もの涙が流れ、閉じた唇は微かに震えていた。

 光は目を大きく見開き、栄を見つめ返した。数秒経って、光は何度か瞬きを繰り返し、僅かに俯く。栄は言葉を続けた。


「何も、分かっていなかったのは、俺の方だ……。俺は、自分のことばっかりで、ちっともお前や母さんのこと……周りを見ていなかったんだ。お前は、全部をしっかり見ていた。一人で、どうにかしようと、今でも……」


 光は首を横に振り、弱々しく微笑んだ。


「そんな、大層な事じゃないよ……」


「すまなかった……」


 栄は再度、頭を下げた。

 その姿を見た光は、下唇を噛んだ。暫くして栄の頭上に「ありがとう」という言葉が降り注いだ。


 その声は、優しく、温かい。

 栄が頭を上げると、光は栄を見てにっこりと微笑んだ。その顔は、栄がずっと見たかった、光の笑顔だった。

 子どもの頃から大好きだった、弟の輝く笑顔だ。


 そうだ、光はこういう笑い方をするんだった、と栄は思った。

 高校へ入ってからの光の笑顔は、まるで訓練されたかのように、何の感情もない笑顔だったことを思い出した。

 栄は光の笑顔に釣られ、微笑み返した。その微笑みを見た光は、ますます顔を綻ばせ「やっと、ハル兄の笑顔が見れた」と言った。

 栄は小さく吹き出すと「お前もな」と言い、二人は声を立てて笑った。笑い方を覚えてた自分が、不思議なくらいだった。そうか、俺はこういう笑い方をするのか、と、心の中で呟いた。



*******



「まったく!馬鹿じゃないの?明け方まで飲み明かすなんて。飛行機、甘く見るんじゃないわよ。大体、光君、まだ未成年でしょ!何で断らないの!」


 いま、栄と光は、百合が運転する車の中にいる。


 明け方まで飲み、しゃべり明かした。気がつくと、空港へ向う時間が迫っていて、光は慌ててホテルへ帰り、支度をし、部屋を出た。

 光自身は、ウーロン茶ばかり飲んでいたのだが、徹夜と喋り疲れのせいか、二日酔いのように頭がぼんやりしていた。

 ふらつく足でロビーで待つ栄の元へ行くと、栄の隣には、仁王立ちした百合の姿が。

 拉致される様に百合の車に押し込まれ、そして今に至る。


「あと半年もすれば二十歳だよ。四捨五入って言葉、知らない?」


 栄は愛想笑いをして言うと。


「法律って言葉、知らない?」


 と、百合は強い口調で言い返す。


「こんなに酒臭くてどうするのよ。出国できないかも知れないわよ?」


「大丈夫。大体、光は二杯しか飲んでないし。酒臭いのは俺だよ」


「二杯も飲めば上等よ!」


 百合は栄を横目で睨み付けると、ハンドルを握り締め、アクセルを踏み込んだ。


「岸本さん、運転、少し乱暴じゃない?」


 栄は助手席で弱々しく言う。

 百合は「ふん」と鼻を鳴らすと、車線変更をし、前の車を追い抜いた。すると今度は、後部座席にいる光が呻き声を上げた。 


「もう少し我慢しなさい」


 バックミラー越しに、青白い顔をした光に向かって言った。光は何も答えず、だるそうに座っている。その姿は、二日酔いで具合が悪いのか、栄に付き合って徹夜明けで具合が悪いのか、百合には分からなかった。

 空港へ着くと、三人は時間までラウンジで休むことにした。

 カード会員だけが中に入れるラウンジには、数人が静かに出発までの時間を過ごしている。

 兄弟は、そろってぐったりしたように窓際の席に着くと、百合が持ってきた水を黙って飲み干した。その様子を見た百合は、あからさまに息を吐き出す。


「本当、信じられない」


 呆れたように言うその声は、小さい声のはずだったが、栄には脳に響く雑音でしかなかった。


「百合さん、本当、送ってもらって感謝してるし、ありがたいと思ってるんだけどさ。ついでと言っては何だけど、本当、頼むから。ほんの少しの間、黙っててくれない?」 


 隣りに座る百合に、栄は頭痛に顔を歪めながら、弱々しい声で懇願するように伝える。

 すると、百合は大きな瞳を益々大きくして、口を開けた。その口は、何かを言おうとしていたが、沖田兄弟が肩をすぼめ、悲劇的な顔をしたのを見て、口を噤んだ。その代わり、二人を交互に睨み付ける。二人は弱々しく愛想笑いをしてから目を瞑ったのだった。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 沖田兄弟の時間がゆっくりと動き出す様、素晴らしいですね…旅立ちをしても、きっと二人なら戻った時に新しい時間を作り出せるのではないかと感じさせられます。
2022/12/31 19:12 退会済み
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