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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
5 沖田兄弟の過去

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第125話 母と妻と

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 光の運転は、栄同様に静かな運転だ。

 里々衣が寝ているせいか、その運転は、いつもより慎重だった。


「今さ、母さんの葬式の後、百合さんに空港まで送ってもらった時のこと、思い出してさ。あの運転、ひどかったよね」


 栄は「ああ、あれは酷かった」と苦笑した。

 窓の外に顔を向けると、開けた窓から入ってくる風が、頬を撫でる。


 不意に、母親が亡くなった時のことを思い出す。

 今はまだ真昼なのに、栄の目の前には、夜の公園の風景が広がっていく。


「光君、ずっと、あなたと同じ気持ちだったのよ」


 百合の声が耳に響く。その声に導かれるように、栄はそっと目を閉じた。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 母親が亡くなった。


 栄にとっても光にとっても、最愛の母。一番の味方で居てくれた人。その、母が亡くなった。


 もともと身体が丈夫でなかった母は、光が家を飛び出してから、ますます寝込むようになった。

 母が亡くなる前、母は、光の名前を呼び続けた。そして、とうとう駄目だと言う時に、今まで譫言しか言わなかった母が、真っ直ぐ栄の目を見て、はっきりと言った。


「ハル、コウはあなたの、たった一人の弟よ。コウは誰よりもあなたの味方よ。あなたを愛している。どうか、昔みたいに、二人で力を合わせて。コウを信じて。おじいちゃんの、味を、復活させてね」


 最後まで、光の事ばかりだ。こんなに大事に思われているのに、あいつは。母を殺したのは、光だ。


 栄は、光を今まで以上に、憎く思った。


 母親の葬儀の準備で忙しい最中、栄は百合に呼び出された。

 百合は、栄の二つ年上で、祖母である会長の秘書を任されていた。母親の知り合いの令嬢で、フランス留学の経験があり、本人の希望でもあったが、会長の希望もあり、短大を卒業してすぐ、運良く会長の秘書として働いていたのだ。


 仕事を通じ、頻繁に話しをするようになってから、お互いがお互いの仕事への姿勢や、考え方に惹かれ、付き合い始めた。

 いつも二人で会う池のある公園に着くと、周囲を素早く見回した。既に来ていた百合は、手摺りに寄りかかり、水面を眺めている。


 公園には、夜だというのに、何組かのカップルが肩を寄せ合って水面を眺めてる。

 その中に百合の姿を見つけると、足早に近づき声をかけた。


「何ですか。急に呼び出して。大事な用事って?今、忙しい事くらい、分かっているでしょう」


 ここ数日、徹夜だったせいもあり、幾分、苛々した口調になってしまう。栄は、気まずさからか、無意識に百合から数歩距離を開けて隣に立った。 

 百合はそんな事は気にもせず、夜風に当たって「良い風ね」と微笑んだ。

 栄は無表情のまま黙って手摺りに寄りかかり、水面を見つめた。百合は、そんな栄の横顔を見て、困った顔で微笑む。


「光君に、連絡しないの?」


 百合はゆっくり、確認するように言った。


「光?」


 栄は声を尖らせ、百合を睨み付ける。


「なんであいつが出てくるんですか」


「家族じゃない」


 百合の言った「家族」という言葉に、栄は馬鹿にしたようにせせら笑うと、「もう、とっくの昔に家族なんかじゃないですよ」と吐き捨てるように言葉を続ける。


「母の具合が悪化したのは、あいつのせいなんですよ。母が死んだのも、あいつが自分勝手に生きているせいで、気苦労が絶えず亡くなったんです」


 百合は眉を顰めると「本気で言っているの?」と訊ねた。


「あいつは、フランスに遊びに行くって言って出て行ったんだ。笑いながら。未だにどこにいるかすら連絡なしで。さぞかし、毎日を楽しんでるでしょうよ」


 栄は鼻で笑うと、苦々しい顔で水面を睨み付ける。


「もしかして、それ、本気で信じちゃってるの?」


 百合は目を見開き、驚いた顔で栄を見た。栄は黙ったまま下唇を噛み、返事もせず水面を見ているだけだった。


「あなた、一度でも、光君の居場所、捜そうとしたことある?」


「……」


「あの子、毎週のようにお母様に手紙を出していたはずよ。それ、一度も見たことない?」


「手紙……?」


 百合は栄の反応を見て「呆れた」と言った。


「あなた、光君のこと、まるで何も分かってないのね。光君がどんな思いで留学したかも、あなたをどんなに慕っていたかも」


 百合は怒りを通り越し、呆れた口調でい言った。


「留学?」


「……本当、何も知らないのね」


 栄は百合を横目で睨み付けると、すぐに目を逸らした。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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