第124話 いつも通りの日常
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お盆が終わり、いつもの日々に戻った。
美夜は四日振りの職場に、なぜか少し緊張をしていた。
「おはようございます」
厨房へ入ると、光が「おはよ」と眠たそうに返す。
「夏休みはゆっくり出来た?」と言いながら美夜を振り返り、直ぐさま笑った。
美夜は想像していたとおりだ、と思いながらも「人の顔見て笑わないでください」と不機嫌そうに言う。
「ごめん……」
光は背を向けると、声は出さないものの、肩を震わせ笑っているのが嫌でも分かった。
笑いが収まったのか、改めて光は美夜を見る。
「良く焼けてるね。海水浴でも行ったの?」
笑いを堪えているのがよく分かる、震える声。美夜は気にするのを止めて「ええ」と答えた。
「美月と兄の三人で。泳ぎはしなかったんですけど、貝拾いとかして」
「日焼け止めは?」
「塗りましたけど、効かなかったんです」
「あれは頻繁に塗らないと効果無いって聞いたことあるけど」
美夜はそう言えば、一度しか塗らなかったなと思い、焼けたことに納得した。
「コウさんは全然、焼けてませんよね。どこへも行かなかったんですか?」
美夜は手を動かしながら訊いた。
「いや、行ったよ。うちのお嬢様連れて。でも、俺、焼けないんだ。色白だから。赤くなって終わり」
「ああ、なるほど」
美夜は何とも思わずに普通の返事をした。すると、光が顔を上げて美夜を見た。その視線に気が付き、「なんですか?」と訊ねると、光は拗ねるような口調で「今、不健康そうだとか、もやしっぽいとか思っただろ」と言った。
美夜は両目を大きく見開き、「ええ?」と声を上げる。
「そんなこと、これっぽっちも思いませんでしたよ。どこからそんな発想が出てきたんですか?」
光はむすっとした顔のまま「思ってないならいいよ」と言い、黙って作業に戻った。
美夜は困惑気味に首を傾げ、被害妄想?と、心の中で呟いたつもりが、声に漏れていたようで「違う!」と一言、光が声を上げた。
その日の午後、美月がシーグラスや貝殻を持ってやって来た。
光を見るなり「なんだ、シェフは、まっちろだなあ。まあ、パティシエだしね、いいんじゃない?不健康チックで」と、笑いながら言った。
*******
九月に入り、Lisは一日だけ臨時休業が入った。
栄と光は、母親の墓前の前に立っていた。
眠っている里々衣を抱き直し、光に線香に火を付けさせる。二人で線香を供え、手を合わせると、どちらからともなく状況報告をした。
光は自分が作ってきた焼き菓子を置き、「じいちゃんの味には程遠いけど」と呟くように言った。
「店も最近は軌道に乗り始めたのか、順調ですよ」
栄は穏やかな表情で墓前に向かって言う。
「あとは、光の接客への姿勢が課題という感じです」
「それは、気をつけるって言ってるだろ」
「改善しなきゃ。ねえ、母さん」
栄はまるで目の前に母親が居るかのように話しかける。光は顔を顰め「改善をするように努力いたします」とぶっきらぼうに言った。
「よし、それでこそ男だ!」
栄は片手を里々衣から離し、光の肩を叩いた。
二人は幾つか報告を終えると、立ち上がりながら「また来るよ」と言い、寺を後にした。
栄は車に里々衣を乗せ、腕が痺れたと言い、光に運転を任せた。
光が運転席に回ると、不意に笑い出す。
「なんだよ、急に。思い出し笑いはエロい証拠だぞ」と栄はからかうと、光は「うるさいな」と言いつつも、その口元は緩んでいた。
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