第122話 双子の思い(2)
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恭は急いで綺麗なタオルを取り、美月の頬に当てる。
美月はタオルを手に取ると、顔を伏せ、声を殺して泣いた。
恭は美月の背中を宥めるように優しく撫で、静かに、諭すように話を始めた。
「俺の目には、お前は十分、美夜の支えになってると思うぞ。どちらかと言えば内向的な美夜が、東京へ行って本当にやっていけるのかと思った。でも、俺や母さん達の心配をよそに、しっかりやってる。それは、お前が一緒にいたからだって俺は思う。お前がいつも側にいて、その阿呆みたいな明るい笑い声振りまいて、いつでも前向きで、美夜が立ち止まると、半ば強引にでも引き上げる。美夜にとって、何よりも大きな存在、大きな力になってると思うぞ?」
恭は美月に、言い聞かせるようにいった。
「阿呆みたいな笑い声かな?」
「おお、アホっぽいぞ。俺は好きだけどな。お前の良いところだ」
「ひどい、アホっぽいのが良いのお?」
美月はタオルで顔を埋めながら、泣き笑いの声を出した。
恭はにっと口角をあげると、「ああ、俺も美夜も、母さんも父さんも、みんなが大好きな笑い声だよ」と美月の短い髪の毛をぐしゃぐしゃに撫でる。
「何やってるのお?」
美夜が日に焼けて赤い顔をして近づいてきた。帽子を被って、日焼け止めも散々塗っていたのに、何の意味もなしていないぐらい、顔が赤くなっている。
恭はその顔を見て「美夜、お前、猿みたい」と大笑いをした。
美月は顔を上げて美夜を見ると、「本当だ、すごい真っ赤だ!」と笑った。
美夜は「そんな!」と慌てて帽子を深く被った。
「今更、遅いだろ」と恭はいい、美夜に冷えたジュースを渡した。
美夜は礼を言いジュースを受け取ると、美月の隣りに腰を下ろした。
「何かいいの拾えた?」
美月は口元にタオルを当てながら訊く。その声に、美夜は素早く美月に顔を向けると、「どうしたの?泣いてるの?」と眉を顰めて訊き返す。
「気分が悪くなったんだと」と恭が答えると、美夜は目を丸くした。
「だから言ったじゃない。何でもっと呼んでくれなかったの?すぐ帰ろう」
「ううん、大丈夫だよ。落ち着いたから。それより、里々衣にお土産拾わないと」
そう言うと、美月は立ち上がって浜辺に走っていった。
「美月、本当に大丈夫なのかな?最近、ちょっとおかしかったんだよね……」
美夜は恭に顔を向けると「お兄ちゃん、何か聞いてない?」と言ってきた。
恭は「いや、別に何も」と惚けると、美夜はどこか納得が行かない様子で「そう」と呟いた。
「ところで、りりーって、誰だ?」
恭は、浜辺で貝を拾っている美月を見ながら訊ねる。
「ああ、私が働いてる店のオーナーのお子さんなの。すっごい気難しい子なんだけど、美月はたった五分で仲良くなったの。今ではまるで姉妹。いや、親子?とにかく、そのぐらい仲が良いの」
「へえ。……美月はすぐに友達出来るからなあ。すごいよな」
恭は普通に感心した。美夜は「本当に」と同意し、美月のすごさを自分の自慢話しでもするかのように話し始めた。
「東京出てすぐ、美月、あんまり元気がなかったの。職場で上手くいってないんだってすぐ気づいたんだけど、あの子、一人でちゃんと乗り越えた。もし、それが私だったら、すぐに逃げ出していたかも知れない。でも、持ち前の明るさで、乗り越えてた。絵もすごく上手いでしょ。うちのオーナーが気に入って、何点か買わせてくれないかって言ってくれたり。それで、店に幾つか飾ったの。そしたら、お客様にも評判で、この間、一点売れたんだよ」
恭は嬉しそうに話す美夜を横目で見て、自分でも嬉しくなってきたことに気が付いた。
話しを聞いている間、眩しさで目を凝らしていると思っていた自分の目は、嬉しさで目を細め、頬が上がっていたのだと感じた。
「私ね、美月が一緒に東京に来てくれて、本当に嬉しかったんだ。ちょっと、落ち込んだことがあって、どうしようもなかった事があったんだけどね、美月が笑ってくれると、ふっと力が抜ける感じで、緊張して凝り固まってた背中が、一気に楽になるの。最初は、自分の生き方に巻き込んじゃってる気がして、申し訳なかったけど、今は感謝しきり。巻き込んでごめんね、じゃなくて、これからも一緒にいて!って感じ」
そう言うと、美夜は自分の言葉に困ったような顔で笑った。
恭は小さく微笑むと「やっぱり双子だな」と息を吐き出しながら言った。
「え?」
「いや、何でもない。それ、美月にちゃんと言ってやったら?」
「え?どれのこと?」
美夜は首を傾げて恭を見た。
「一緒にいてくれて感謝してるって。これからも、一緒にいてねってさ。美月のやつ、自分は美夜に甘えてばっかだって、言ってたからさ。あたしも美月に甘えてるのよって、教えてやれ」
そう言うと、恭は立ち上がり「最後にもう一暴れしてくるか」と、浜辺に走っていった。
恭は浜辺に着くと、美月に足で海水をかけ、美月がそれに笑いながら怒り、むきになって足をばたつかせ、恭に向かって水を浴びせた。
美夜は笑いながら二人の様子を眺め、恭の言葉を頭の中で復唱した。
「甘えてばっかり……かあ。それは私も同じなのに……」
美夜は短く息を吐き出すと、大きな口を開けて笑ってる美月を、眩しそうに目を細めながら見つめたのだった。
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