表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
4 それぞれの思い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/201

第120話 兄の存在

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 最近、美月は栄と会話をすることが増えていた。それは、美月がよくLisに行くようになり、美夜を待っている間、栄が気を遣っているのか、美月が座っている席の前に座り、話しかけてくるからだ。

 美夜が喫茶に上がってきて、二人で話しているのを見ても、美夜はいつもと変わらない様子で、「ああ、美月」と満面な笑みを見せる。

 美月はふと、美夜は、自分が栄と話しをしたりする事を、本当はどう思っているのだろか、と思った。

 もし、二人が付き合っているのであれば、栄の態度も何となく頷ける。きっと美月しか知らない、美夜の話しを聞きたいのだろう。または、栄の事をあまり良く思っていなかった自分に、媚を売りに来ていたのかも知れない。

 だが、栄の態度を思い出すと、そのどちらでも無いように思えて仕方がなかった。

 話す内容と言えば、お互いが好きな物の話しや、旅の話しが多く、美夜の話しは殆ど出たことがなかった。 

 美月には、益々分からなくなってきた。

 栄のことも、美夜のことも、知っているようで、本当は何も知らない。


「あ、美月、起きてたんだ」


 美月は大袈裟なぐらい驚いて振り向いた。 


「え、どうしたの?なんでそんなに驚くの?」


 美夜は笑みを浮かべながらも驚いた様子で訊く。

 美月は硬直した顔で美夜を見上げた。美夜は小首を傾げ、美月の隣りに座る。


「なんか、顔色良くないよ?夏風邪引いた?」


 美夜は美月の額に冷たい手を当てる。その手の冷たさに、美月はそっと目を閉じた。


「熱は無いみたいだけど、ご飯食べたら、念のため薬飲んでおいたら?」


 美夜はゆっくり立ち上がり「ごはん、もう出来るから」と言って台所へ戻っていった。

 美月は美夜の後ろ姿を見送ると同時に、複雑な気持ちが倍増していた。


「おはよう。来たよぞぉ」


 玄関から、恭の大きな声が聞こえた。

 美月の心音が少し大きくなる。美月は素早く立ち上がり、玄関へ向かった。


「お、みっづきい。元気だったか?」


「うん、ありがとう、元気だよ。恭兄も元気そうで良かった。あ、奥さん大丈夫なの?」


「ふふん。俺はいつでも元気だ。ありがとうな。奥様はもう、病院に入ったよ。もうすぐお前は叔母ちゃんになるんだぞお」


 恭は嬉しそうに言った。


「まだ二十三で叔母ちゃんって呼ばれるのは嫌だけど、でも、嬉しいよ。楽しみ。産まれたら写メール送ってよ」


「もちろんだよ。毎日でも、毎時間でも送ってやるよ。毎分でも良いぞ?」


「いや、そこまではいいかな?」


 美月と恭が笑いながら居間へ行くと、美夜がテーブルに箸を並べていた。


「よ、美夜。久しぶり」


「あ、恭お兄ちゃん。おかえり、久しぶり。お兄ちゃん、こっちに来てて良いの?」


「なみちゃん、病院にいるんだって」と美月が答えた。


「へえ、もうそんな時期なんだね」


「そうよ。美夜、お前、今パティシエなんだろ?産まれたら、祝いのケーキでも作ってくれよ」


「良いけど、赤ちゃんは食べられないじゃない」


 美夜はてきぱきと手を動かしながら話、恭はゆっくりと卓袱台前に腰を下ろす。


「愛する奥さんのために、だよ。赤ちゃんももちろん楽しみだし、大事だよ?でも、まずは奥さんでしょう。なみちゃんの喜ぶ顔が見られれば、俺はそれで十分」


「はいはい、ごちそうさま」


 美月は笑いながら兄の両肩を叩いた。


「お兄ちゃん、朝ご飯は?」と美夜が訊く。


「まだ食ってない。ここで食おうと思ってたから」


「分かった。じゃあ、すぐ用意するから、座って、待ってて」


「おう」


 美夜が台所へ向かうと、恭は自分の肩を叩いている美月を見上げた。


「なに?」美月は眉を上げる。


 恭は父親に似た切れ長の猫のような瞳で、美月をじっと見つめた。


「何か、悩んでるのか?」


 その言葉に、美月の心臓は大きな音を立てた。その音は、美月の耳の奥に酷く響き、恭の声がぼんやりと聞こえる。


「え?な、何言ってるの?恭兄」


「嘘つくな。俺の目は、誤魔化されないぞ」


 そう言うと、くるりと向きを変えて、美月に向かい合った。


「どうした」


 美月は顔を伏せて、目を泳がせる。


「俺には言えないことか?」と、美月の顔を覗き込む。その瞳は、妙に鋭い光を宿している。


「そんなんじゃ、無いけど」


 口を尖らせ答えると、恭は「ふう」と息を吐き出した。

 大きな手で美月の頭を撫で、「無理はするなよ」と言った。


「苦しくなって、首の元まで押し寄せてきて、それでも黙ってたら、お前だけじゃなく、お前の周りにいる人も、お前を見てて苦しくなる。吐き出せるうちに出しちまわないと、声も出なくなるぞ」


「うん……」


 恭は美月の頭から手を離すと、優しい笑顔を見せた。


「大丈夫。お前は俺の妹だ」 


 美月は吹き出しながら「何それ」と言い、兄の優しさに心から感謝するのだった。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ