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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
4 それぞれの思い

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第119話 美月の中の孤独

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 あれは、美月が急遽仕事に出ることになった日だ。


 今思えば、あの日、美夜の様子は朝から少しおかしかった。洋服を散らかして服を選び、帰ってきてると思ったら、寝ていた。

 翌朝は、えらく早い時間に出て行き、夜も腹の調子が良くないと言い、夕飯を食べずに寝てしまった。

 何かあったのだと思い、翌朝、美夜の部屋をノックすると、前日同様に美夜は既に仕事へ行っていた。夜、話しを聞こうと思っていると、いつもと変わらない、元気に笑う美夜が居た。

 あれはただ単に、本当に具合が悪かっただけなのだと思った。朝早く出掛けていたのは、新しいケーキ作りを任されてから、忙しくなったのだと。しかし、その後は通常の時間に家を出ていた。


 美月は、だいぶ下の方に角度を変えた月を、じっと見つめた。


 自分達が産まれた時、こんな月夜だったのだろうか、と思いを巡らせていると、いつの間にか眠りの中に入り込んでいった。



 翌朝、美月が起きると、隣りに寝ていた美夜は、既に布団を畳んでいて、その場には居なかった。

 美月は着替えを済ませ、顔を洗いに向かった。洗面所から出ると、台所から美夜と母の賑やかな声が聞こえてきた。

 美月は台所の暖簾を少し持ち上げ、その様子をぼんやりと眺める。

 子供の頃から美夜は母と一番仲が良くて、自分も本当は母親に甘えたいのに、なぜか甘えることが出来なかった。

 母も母で、いつでも美夜ちゃん、美夜ちゃんで、美月に対しては兄同様、まるで男の子扱いだった。

 そうやって美月が寂しいと思っている事を、気が付いていたのか何なのか、兄は常に美月を心配し、ことある事に気に掛けていた。そして、美月の目に分かる形で、明らかに美夜と美月に対しての態度を変えていた。母親代わりにはならなかったが、それでも、美月の心の空洞は、少しだけ優しいもので埋まった。


 東京に出る際も、母は美夜の心配ばかりで、美月については「あんたはどこへ行っても平気よ」と言ったきりだった。

 本当は自分だって心配をして欲しかった。

 その時も、兄だけは美月の事を心配して、あれこれと用意し、送り出してくれた。

 大人になってからは、子供の頃のように、あからさまな態度の違いは見せなかったが、それでも、要所要所で、美夜に対する態度と、美月に対する態度は違った。その度、美月は少しだけ救われていた。誰かが心配してくれている、ただそれだけで、心が満たされた。 


 もちろん、美夜も美月を大事に思ってくれているし、心配もしてくれる。嬉しいことがあれば、自分のことの様に喜んでくれるし、悩みがあれば、一緒に悩んで、美夜なりの解決策を見つけては、対処してくれる。自分には欠けているものを、美夜は沢山持っている。美月が薄暗い世界を彷徨っていても、美夜はいつでも優しく美月を包み込んで、「大丈夫」と心の中に呼びかけ、明るい方へ連れて行ってくれる。


 一番の理解者だ。 

 

 だから、美夜のことを美月は大好きだった。自分でも、美夜にとって、一番の理解者でありたいと、心から思っている。

 しかし、こうして母と一緒に居る美夜を見ると、美月の前ではいつも、「美月の母親」の役を演じていたのだ。自分ばかりが美夜に甘えて、美夜の理解者になれていないのではと、思ってしまう。

 美月には見せない、母親に安心しきった甘えた表情を見せる美夜を、美月は複雑な気持ちで見てしまう。


 美月は台所からそっと離れ、縁側へ行き腰を下ろした。

 美夜が栄との事を言わないことが、何よりの証拠なのかも知れない。

 子供の自分には、相談できなかったんだ。だから、美夜は美夜なりの、美月が思いも付かない一番の解決法で、今、栄と一緒にいるのかも知れない。

 美月は目の前に咲く、青いあじさいをぼんやりと眺めた。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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