第115話 プレゼント
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
午後四時を過ぎ、店終いをしていると、美月が店にやってきた。大きな紙袋を抱えるように持って、瞳を輝かせている。
「なんだ、なんだ?すごい荷物だな」
栄は興味津々に美月の荷物を眺めた。
「へへ。里々衣へのプレゼント。美夜と前々から決めてたんだ」
美月は、いつに無くご機嫌に応える。最近、栄に対する態度が柔らかくなってきた。その事に、栄は少し嬉しく感じていたが、悟られるとまた不機嫌な態度になる可能性も無きにしも非ずで、なるべく普段と変わらぬ態度で美月と向き合う。
「へえ?なに?そんなに大きいので、里々衣に扱えるもの?」
「大丈夫だよ。絶対気に入るって自信があるんだ」
「ほほお。それは楽しみだなあ」
「まあ、楽しみにしててよ」
美月は頬を高揚させ、嬉しそうににっと笑った。
午後五時になると、徳山の店の前で全員が落ち合った。
里々衣は雪の祖父母に連れられ、店に現れた。
「あ、美夜ちゃん、美月ちゃん、紹介するよ。こちら、僕の奥さんのご両親。雪さんのご両親でもあるんだけどね。里々衣のお爺ちゃんと、お婆ちゃんです」
栄は義理の両親に、美夜と美月を紹介した。
美夜と美月は丁寧に挨拶をすると、里々衣の祖父母はとても優しい笑顔で答えてくれた。優しさが全身から滲み出ているように感じるほど、側にいると温かい気持ちになる。
美夜は、ふと百合の写真を思い出した。そうか、誰かに似ていると思ったのは、雪の事だったのだと思った。美夜は勝俊の隣に立つ雪を見た。雪は百合の姉だったのだと分かった。
里々衣は祖父母が大好きなようで、終始ご機嫌だった。
店内に入ると、美夜は以前来た時とは雰囲気が違うと思い、周りを見渡した。
ディナー用にテーブルクロスが変わっている事や、照明の薄暗さがそう思わせるのかも知れない。
数名の客が居る程度で、まだ混雑はしていない。
徳山はわざわざ厨房から出てくると、栄達を庭が見える席の方へ案内した。予約エリアとして衝立を立てて、一般客との境界が作られている。
徳山は愛想良く美夜に挨拶をした。
「久しぶりだね。あれから来てくれないから、本当は美味しくなかったのかなあって、心配して夜も眠れなかったよ」
と、徳山が冗談めかして言うと、すかさず美月が「来たことあるの?」と訊いてきた。
美夜は微かに顔を強張らせながら「うん、前に、一度ね」と答えた。
「栄とデートだったんだよね」
徳山は何の悪気もなく言ったが、その声に栄が被せる様に少し大きな声で「美夜ちゃん、美月ちゃん、さ、早く席に座って」と声を掛けた。
美夜と美月は栄に促され、席に着く。その姿を見てから、栄は徳山に近づいた。
「トク、ごめん。その話は内緒で」
栄は徳山に小さく耳打ちをする。
徳山は不思議そうな顔をし、瞬きを繰り返すと「あとで教えろよ」と、いたずらっ子のような笑みを見せた。
「トクおじちゃん」
徳山は栄の足元を見て、「おお、大きくなったなあ」と、里々衣を抱き上げた。
「お、重くもなったなあ」
「レディに対して重いと言うな。失礼だぞ」
栄が生真面目な顔をして言うと、徳山はきょとんとした表情をし、すぐに吹き出した。栄も声を立てて笑った。
その時、美夜はそっと胸に手を当てていた。
栄の事はもう乗り越えることが出来たが、あの日のことを思い出すと、胸が軋む。
栄の笑顔を見ても、名前を呼ばれても、緊張することはなくなったが、ここへ来て、あの日のことを瞬時に思い出した。
水族館の薄暗さに引き込まれそうな栄の悲しい横顔が、美夜の目の奥に焼き付いていて、離れない。
美月は、目を閉じて、じっとしている美夜の横顔を、何も言えずに、ただじっと見つめていた。
里々衣が大好きな人達に囲まれた誕生日会は、あっと言う間に時間が流れ、幸せそうな顔をし、栄の腕の中で眠りについた。
「犬のぬいぐるみ、ありがとうね。あんなに大喜びするとは。正直、驚いた」
帰り道、栄は隣を歩く美月に、声を抑えながら言った。美月はにっこり笑みを浮かべ、栄同様、声を抑え話し出した。
「中途半端な大きさじゃ、貰っても嬉しくないけど、リアルに近い大きさだと、嬉しいもんだよ。私が子供の頃そうだったんだ」
「へえ。実体験か。なら、納得だ」
二人は顔を見合わせ、小さな声で笑った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




