第114話 わくわくの日
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
七月二十日。
栄が子供の頃、七月二十日は「海の日」で、その日から夏休みが始まると、わくわくしたものだった。今は、大人の都合で色々な祝日が毎年違う日に変わる。しかも、今では「スポーツの日」となってしまい、わくわく感がどこか半減した気持ちになるから不思議だ。たかだか祝日の日付と名称が変わっただけで、七月二十日は何も変わらないというのに。
栄が子供の頃、「わくわくの日」と名前付けたほど好きだったその日に、里々衣が産声を上げた。
「本日は土曜ではありますが、通常より短い営業となります。ええ、理由は皆さんご存じのように、我が愛娘が本日で六歳になるため、お祝いをしようという事になり、私事で、大変恐縮ですはございますが、ええ、皆様にはご迷惑おかけいたしますが……」
栄が改まって口上を述べていると、雪が「はいはい」と打ち切った。
「わかったから。四時に閉店して、六時から徳山君の店に行くから、早く片付けをしろ、でしょ?」
美夜と光は笑いながら栄と雪の遣り取りを見ていた。
栄が「ええ、まあ、そう言う事です」と愛想笑いをすると「じゃあ、そう言う事だから、みんな、今日も一日頑張りましょう!」と雪が締めくくりの言葉を放つ。
美夜は「よろしくお願いします」と元気よく言うと、光と共に厨房に入って行った。
「今日、お姉さん来るんでしょう?」
光はショートケーキのナッペをしながら訊ねた。
光が今作っているのは、里々衣のバースデーケーキだ。美夜はそれを見ながら「イチゴが沢山乗ったケーキ」と注文を受けたのだと、光が言っていた事を思い出していた。
「中西?」
光は手を止めて、美夜を見る。美夜は、その視線にハッと気が付き、我に返ったように話し出す。
「ああ、はい。今日は仕事の時間を変わってもらえたと言っていたので、遅くても四時過ぎには、ここに着くと言っていました」
その返答を聞くと一つ頷き、光は柔らかな笑みを浮かべ、作業の続きを再開する。
「そう。彼女が居てくれると、里々衣がいい顔をするんだ。あの顔を見ていると、こっちも嬉しくなる」
「本当、そう思います」
美夜は作業が途中だった自分が担当のケーキの飾り付けを終え、売り場のショーケースに置きに行った。
担当するケーキの種類が三種類に増えてから、美夜は益々張り切るようになった。
光はショートケーキのナッペをしている最中に、ふと美夜に目を向けた。洗い物をしている美夜の後ろ姿を見ながら、「うん」と唸るように頷くと美夜の名前を呼んだ。
「はい」
美夜は洗い物の手を止めて、光に振り向いた。
「そろそろ、次の行程に行こうか」
その言葉に、美夜の表情が、花が咲く様にぱっと明るくなる。
「ロールケーキ、明日から始めよう。そろそろシャンティーに慣れていった方が良い」
「はい!よろしくお願いします」
光は小さく微笑むと、バースデーケーキ作りを再開した。
※ナッペ……デコレーションケーキなど、ケーキにクリームを塗っていく作業のこと。
※シャンティー……泡立てた生クリームのこと。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




