表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
4 それぞれの思い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/201

第111話 嵐の予感

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 栄はいつもと変わらない笑顔で店に来たので、美夜は少しほっとした。昨日の栄の横顔が、脳裏から離れない。悲しげに遠くを見つめる栄の顔は、自分が全く知らない人物だった。今朝の栄が、あの悲しげな顔ではない事が、美夜には救いとなった。



 昼休憩に入ると、美夜は光に頭を下げた。


「今朝は、すみませんでした」 


 光は持っていた丼を降ろす。


「……もう、落ち着いたか?」 


 美夜の瞳はまだ赤みが残っていたが、腫れは落ち着いている。


「はい。もう、大丈夫です……。本当に、ご迷惑おかけしました」


「俺は別に……」そう言うと、光は丼を持って親子丼を再び食べはじめた。


 美夜も丼を手に持つと、少しずつ食べ進める。今週は光が賄い担当だったが、まだクリームシチューは出ていない。


「おいしい……」


「うん」


「コウさん」


「なに?」


「明日、シチューを作ってくれませんか?」


 光は顔を上げて美夜を見た。

 美夜は少し俯き加減ではあったが、小さく微笑んで、じっと丼を見つめている。


「私、コウさんの作ったシチューが食べたいです。すごく美味しい。あれを食べたら、きっと心も元気になれる気がするんです。お願い出来ませんか?」


 その願いに、光は小さく微笑むと「わかった」と言い、丼の中身をかき込んだ。

 翌日、光の作ったシチューを食べた美夜は、本人が言っていた通り心が元気になったのか、以前と変わらず明るい笑顔を見せた。その笑顔は、決して無理した笑顔ではなかった。その姿を、光は満足そうに見ていた。




 七月に入ると、中元用や帰省の土産物として、焼き菓子の詰め合わせが、どんどん売れていく。店内にもコンスタントに数名の客が入って、お茶の時間を楽しんでいた。

 厨房では通常よりも多めに焼き菓子を焼いていったが、それでも足りなくなる菓子も出てきた。


「なんだか、今年はやたらと売れるな……。客が増えたのかな」


 光は喫茶に補充分の焼き菓子を持って行くと、独り言でもいうように栄に話しかけた。


「確かに、お客は増えたよ。下の本屋もそこそこ来てるし。美夜ちゃんが上にお客回してくれてるのも関係あるかもな。あの子、誰かさんと違って接客が上手いんだな」


 光は目を細くして栄を横目で見た。栄は見て見ぬ振りをして、コーヒーカップを拭く。

 店のドアが開き、ドアに付いた呼び鈴がなった。

 二人は「いらっしゃいませ」と声を揃えて言うと、入ってきた女性客は、不機嫌そうに栄と光を一瞥し、顔を逸らした。

 女性客は五十代前後に見えた。神経質そうに眼鏡を何度も触り、ケーキのショーケースを食い入るように見た。


「こちらでお召し上がりですか?」


 栄はいつもの営業スマイルで女性客に声を掛けたが、女性客は栄をぎろりと睨み付けただけで、何も答えなかった。


「お決まりになりましたら、お声掛けください」


 栄は顔を引き攣らせながら言い、一歩奥へ下がった。

 光は焼き菓子を並べながら不機嫌な顔をしている。その顔を見た栄は、光の脇腹を突き、心の中で「笑え!」と呟きながら、光に、にっこり笑って見せた。

 光は益々眉間の皺を深くし、栄を見る。

 これは駄目だと思った栄は、光に厨房に戻るように足で促したが、光は何故か戻ろうとしなかった。そんな所に、女性客が「すいません」と不機嫌な口調で声を掛けてきた。


「はい。お決まりですか?」


「これ、何時間持つのかしら?」


「こちらにあるケーキは全て、保冷剤を入れても二時間程度が限度になります」


「五時間持たせられないの?ここのケーキが美味しいって聞いてここまで来たんだけど」


 女性客は横柄な態度で言ってきた。まるで自分がわざわざ足を運んでやったのよ、私の言うとおりにしなさいよ、と言わんばかりの態度であった。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ