第105話 カルボナーラと二種類のピザ
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美夜と栄は、店内の奥にある、庭が見える席に座った。
店内は女性客が多く、楽しげに話しながら食事をしている。
「ここはね、彼のお父さんが作った店なんだ。彼は二代目でね。ピザがお勧めなんだ」
「ああ、さっき、石窯みたいなのが見えましたね」
「そう、あれで焼くんだよ」
そうこう話しをしていると、ウエイトレスが水とメニューを持ってきた。
二人はメニューを見ながら、何にするか決める。
「結構、量があるから、シェアしようか?」という栄の言葉に、美夜は周囲を見回した。確かに、大きな皿で、パスタもサラダもそれなりの量がありそうだ。美夜が同意すると、栄は店員を呼び、美夜が食べたいものを注文した。
注文品が来るまでの間、二人はぼんやりと庭に咲く花を眺めていた。
よく手入れされた庭には、ハーブや小さな花々が咲いている。これから夏にかけて、夏の花が咲くのだろう。まだ堅い蕾も見て取れた。
美夜はちらりと横目で栄を見た。
栄は頬杖をつき、眩しそうに目を細め庭を見ている。
黒く長い睫が、頬に影を落とす。美夜は、視線を下にずらし、胸の奥がグッと痛くなった。テーブルの上に置いた栄の左手薬指に、シルバーのリングが光っていたのだ。
美夜はすぐに目を逸らした。
今まで、指輪を付けていたのかどうかさえ思い出せないほど、ごく自然に、しっくりとそこに収まっている。
美夜は庭を見る自分の目の前が、暗く、何も見えないような気がした。
「お待たせいたしました」
不意に声が降ってきた。目の前にはグリーンサラダが置かれ、栄は礼を言うと、皿に取り分けようとした。
「あ、私やります」
「いいよ。俺が取ってあげる。今日は特別」
栄はちらりと美夜を見ると、にっと口角をあげた。
美夜は「ありがとうございます」と言い、栄の言葉に甘えた。
続いて美夜が頼んだアサリの入ったトマトスープと栄が頼んだミネストローネが来た。
美夜は何を食べても、味が分からなかった。緊張からなのか、はたまた、栄の薬指にはめているリングを見てショックだったのか、分からない。ただ無言で、来た物を口に運んだ。栄をちらりと見ると、腹を空かしていたのか、美夜同様黙ったまま、ただひたすら来た物を食べているように感じた。
暫くして、ワゴンがテーブルの脇に付けられた。ワゴンの上には、半分に切られた大きなチーズが乗っている。
「カルボナーラでございます」
男性店員が気取った声を出して言った。
男性店員は、湯気を漂わせているパスタを、チーズの中に入れ、その中でかき混ぜた。パスタの蒸気で、チーズの香りが強く鼻を掠める。
男性店員は皿に取り分け、黒胡椒を挽き、美夜と栄の前にパスタを置くと、ワゴンを押して去っていった。
「すごいですね。こんなの初めてです」
美夜は目を輝かせて驚いた。
栄はにっこり微笑むと「旨いから、食べてみなよ」と言って自分でもフォークを手にしてパスタを巻いた。
美夜はパスタを口に運んだ。チーズの香りが口の中に広がったが、不思議と諄くなかった。チーズを和えている時に嗅いだ匂いから、もっと濃い味だと思っていた。
「美味しいです」
美夜は素直に感動していた。
「そう。よかった」
栄は嬉しそうに頬を緩めると、パスタを食べ進めた。
パスタを食べ終える頃、ピザが運ばれてきた。マルゲリータピザと生ハムとルッコラのピザ。二種類が、テーブルを占領する。ピザは薄い生地で、チーズがふつふつを音を立てている。店員がピザを切る専用のローラーで切り分けると、「ごゆっくりそうぞ」と言い去っていく。
「すごい……こんなに食べきれますかね?」
「見た目より結構食べられたりするもんだよ。さあ、熱いうちに適当に取って食べよう」
「はい」
美夜はマルゲリータを一切れ取ると、思いの外伸びるチーズに手こずった。
チーズのもっちりとした食感と、薄い生地のかりかりとした食感が楽しかった。トマトソースもさっぱりしていて、他で食べるものとは味が違った。
「美味しい……。すごく美味しいです」
栄はピザを頬ばりながら、満足げに頷いて食べていた。食べ切れるかどうかの心配はいらなかった。気が付けば、いつの間にか二人で全て平らげていた。
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