第101話 ため息
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雪に話しを聞いてから、栄は美夜の様子を観察した。
雪が話していた通り、美夜は自分を見ている事が分かった。目が合うとすぐに逸らすが、話しかけると、嬉しそうに頬を緩めるものの、口数が極端に減る。
光とはよく話しをしているが、栄が側にいたり、栄の前となると、ただただ微笑んで、あまり話しをしないのだ。
いつからそうだったのか考えてみたが、思いつかなかった。ただ、少なくとも五月の祭りの時は、栄とも光同様、良く話しをしていた様に思えた。
栄は誰も居ない店内で、カウンターに寄りかかるようにして立ち、深く息を吐き出した。
「なに?溜め息なんか吐いて。幸せが逃げちゃうよ」
栄は目を見開いて、素早く店の出入り口に顔を向けた。
店のドアの前には、美月が立っていた。美月は栄の驚いた顔に驚き、「なに?」と眉を微かに顰めた。栄は口を小さく開け、微かに眉を顰める。
美月は栄の様子を不安そうな表情で見た。栄が、泣くような気がしたのだ。
「ハル……?大丈夫?」
美月は店の中に入ると、カウンター前に座った。
「どうしたの?」
栄は美月の顔をじっと見つめ、我に返ったように頭を振ると、「いや、なんでも」と呟いた。
百合のよく言う台詞だった。
栄が仕事で息が詰まり、溜め息を吐くと、毎回その台詞を言われた。
「じゃあ、百合さんは溜め息吐かないの?」と訊ねると、「幸せが逃げないように、訓練したから」と冗談なのか本気なのか、真面目な顔をして答えた。
美月の声が、百合の声のように感じた。
全く違う声質にもかかわらず、そんな風に聞こえた事に、栄は驚いた。そして、自分はまだまだ駄目だと、しみじみ実感する。
栄は気を取り直したように顔を上げると、「久しぶりだね」と美月に微笑む。
すると、美月はその微笑みに渋い顔で答えた。
「栄、無理して笑う必要ないよ。何かあったんでしょう?別に、根掘り葉掘り聞く気はないけど。そんな引き攣った顔で笑われても、こっちだってどうしたらいいか困るよ」
図星を刺され、栄は下を向き、小さく微笑んだ。
「うん。ごめん」
「いいよ。別に。ねえ、美夜が終わるまで待ってて良い?」
栄は顔を上げると「もちろん、どうぞ」と答え、紅茶を入れる用意をした。
美月は「ありがとう」と言うと、奥の壁際にある、いつもの席に着く。
大きな鞄からスケッチブックと色鉛筆を取り出し、絵を描き始めた。
美月はよくこうして店に来ては、美夜が終わるまで絵を描いて待っていた。
栄はまだ一度も美月の絵を見た事がない。落書き程度の絵なら、何度か見た事はあったが、真面目に書いた絵は、まだ見た事がない。今まで、特別気になった事はなかったが、今日は妙に気になった。一体、どんな絵を描くのか、どんな色を使うのか、とても気になった。
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