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【完結】光の或る方へ  作者: 星野木 佐ノ
3 恋

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第100話 報告(2)

いつも読んで頂き、ありがとうございます。





 栄は目を閉じたまま、深く息を吐き出すと「ありがとう」と、心を込めて言った。


「それで、父さんには言ったの?」


 光は気を取り直すかのように、さっぱりとした声で訊く。

 栄は眉を顰め、頭の後ろを掻きながら、「いや、それが……まだ、なんだ……」と言い淀んだ。


「どうして?」


「まあ、なんだ。……色々と、順番を間違えた……」


 そう言うと、光は一瞬の沈黙後、素早く頭を回転させ、「あ~あ」と溜め息と笑いが混じった声を上げた。


「それは、言いづらいね」と、他人事のように大笑いをする。


「笑うなよ……。俺も昨日知ったんだよ……。どう報告をしようか、一緒に考えてくれ」


 栄は弱り切った声を出し、弟に縋り付いた。頼みの綱の弟は、「だぁめ。自分で考えな」と、ピシャリと言い切る。

「ケチ」口を尖らせ呟くように言うと、弟は吹き出しながらも、「ケチじゃないよ」と言った。


「自業自得だろ。それに、俺より父さんの扱いに慣れてるのは、兄さんなんだし。まあ、頑張って」


 明るく楽しげな声が、栄を軽く跳ね飛ばす。


「冷たい奴だなあ」


 不服そうに声を上げると、光はさらに笑う。


「冷たいんじゃないよ。ライオンの親と同じなだけ。今、甘やかしたら、この先どうするの。兄さんの為にならないし、こんなへなちょこ親じゃ、産まれてくる子供が可愛そうだよ」


 光の言葉に栄は黙った。下唇を突き出し、鼻から息を強く吐き出す。


「ところで、いつ産まれるの?」


 栄は眉を上げ「えっと……」と指を折った。


「七月末予定だったかな」


「へえ。三十一日に産まれたら、母さんと同じ誕生日だ」と、光はどことなく嬉しそうな声を出した。栄は「そうか、そうだな。もしかして、生まれ変わりか?」と笑った。


「式は、喪中だってこともあるし、今年中は控えるつもりだ」


「そう。向こうのご両親に挨拶は?」


「明日行く予定だ」


「ふうん。やっぱり、緊張する?」


「まあな。軽く空嘔吐する感じかな」と答えると、緊張感から今まさに話しながら、軽く吐き気を催した。


「自分の親に話すよりも?」


 光の質問に唸りながら「同じくらい?」と答える。


「なら、いい予行練習だと思えばいい。張り切って行ってらっしゃい」


 光の送り出す言葉が、本当に栄の背中を叩いたように感じた。栄は自分の背中に手を当て、小さく頷いた。


「ああ。ありがとう」


「じゃ、もう切るよ。朝早いから、もう少し寝たいんだ」


「ああ。悪い。また電話する」


「うん」


「おやすみ」


「おやすみ」


 電話を切り、深く息を吐き出した。仏壇に飾ってある母の写真を見る。まるで祝福をするかのような優しい笑顔が、そこにあった。栄は写真に微笑み返すと「そう言うことですから。産まれてくる赤ちゃんが、元気であるように、見守っててください」と、手を合わせた。 


 産まれてきた子供は、未熟児までは行かないが、少し小さな女の子だった。だが、周囲の心配をよそに、元気な泣き声を病院中に響かせた。

 小さくて細い手足、どうやって抱えたらいいのか戸惑う栄に、看護師は親切に教えてくれた。

 はじめての子育てに、てんやわんやしていると、栄の父親さえも一緒になって世話をした。結婚報告時、火山が噴火したかの様に大激怒だった父も、孫にはデレデレな事が可笑しくて堪らなかった。



*******



「パパ」


 栄はふと、里々衣に目を向けた。目を擦りながら大きな欠伸をしている愛娘を見て、栄はそっと微笑んだ。


「やっと起きたね。おやつにしよう」


「うん」


 里々衣はベッドから出ると、先に寝室を出て行った。

 栄はゆっくり立ち上がり、里々衣の後に続いて寝室出た。





最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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