無人の野を往く如く
第1巻、来年01/10発売です。
(前話)
蜘蛛周回して、ポーションもらった。
そんなこんなで、移動を済ませ。
この草原も、そろそろ見慣れてきたかなというところ。
「うーん。確かにゴブリンの数は多い。……けど」
『人が多いw』
『人しかいないまである』
『ゴブリンも居るけど……』
『湧いたそばから狩られてるなw』
「なんかこう、可哀想なくらいかも」
『たしかに』
『向こうも湧きたくないのでは』
『ポップ即狩りだもんな』
『取り合いになってる』
『みんな考えること一緒だね』
『初日思い出すわ』
「あー!うさぎさんの時か!たしかにー。今回も奥行ってみようか?」
『ありかも』
『実際、拠点近くはユキには弱すぎるしな』
『淒女サマにはもっと相応しい狩場がある』
『奥の方が出てくるの強いしなー』
『どの道、オーガたち探すんでしょ?』
「そうだね!こんな手前まで出てくるくらいなら、もっと大騒ぎになってるだろうし。先まで行こーか」
視聴者さんたちとお話しながら、のんびりと歩く。
本音としてはもう少し早く移動したいんだけれど、できないもんはしょうがない。
近くに湧く敵は……
「あ、湧いた。……って、逃げられてない?」
『ほんまやww』
『後退られてて草』
『悪魔だ!!』
『逃げろ!!』
「誰が悪魔じゃ誰がっ!!!」
歩いている間にも、近くにゴブリンは出現する。
けれど、彼らは決して近寄ってこない。
むしろ、恐れるかのように後ずさる。
何か得体の知れないものを見つけたかのように……いや、私なんだけど。
『魔物に逃げられる聖女ってマ?』
『これは淒女』
『淒女サマキター』
『まぁ、悪魔ですし』
「流石に酷くない!?」
『まぁ、実際ゲームとしては普通の行動』
『格下の魔物が逃げていくのはあるあるよね』
『リアルなら尚更じゃない?』
『それはそう』
『勝ち目ない戦いして死にたくはないよな』
「そう言われればそうか……。でもなんかこう、レベル差とかじゃない怯え方されてるような気がするんだよねぇ」
『淒女ですし』
『悪魔効果だろ』
『日頃の行い』
『自分の胸に手を当てて考えろ』
『ヒント:いつぞやの乱獲』
「あーあーきこえないきこえなーーい」
まぁ、これだけ他にも人がいる以上、わざわざ去るものを追う必要は無いだろう。
ポーションで回復できるとはいえ、無駄な消耗は避けるに越したことはない。
私の場合、どんな相手であっても無消耗じゃ倒せないからね。
通常攻撃ひとつで倒せるというふうには行かないんだ。
人に溢れ、ゴブリンも結構な頻度で湧いてくる。
そんな草原を、ただ1人のんびりと歩いていく。
その有様は、無人の野を往くのとなんら変わりは無いだろう。
かなりの距離を、そのようにして歩いた。
いつぞや破壊した砦モドキを越えるころには、人の数も疎らになってくる。
それでもなお、ゴブリンたちは変わらない。
いや、変わらなくはないんだけど……
『逃げなくはなったね』
『遠巻きに見てる』
『監視されてて草』
『完全に厳重注意対象じゃん』
『決死の覚悟で淒女を見張ってるんだろうなぁ』
遠巻きに、それもかなりの距離を維持しながら。
じっと、複数のゴブリンたちの集団が私をみはっているんだよね。
杖持ちや大きな盾持ち、剣持ちなどがいることから、あれらもまたこちらで言う1パーティなんだろう。
もちろん、近くに他のプレイヤーさんがいる場合はそこと戦ったり狩られたりしているんだけど、あくまで私とは一定の距離を保ち続ける。
「うーーん……ずっと見張られてるのも嫌だなぁ」
『ストレスなのは間違いないよな』
『ある意味不気味』
『(ゴブリン界で)有名になりすぎた』
『牽制とかしてみたら?』
あ、それありかも。
確かにその通りだ。観られ続けるのが億劫でしかも無視している限り変わらないのならば、追い払ってしまえばいい。
結構な奥地まで来た。今回は、ちゃんと守護結界のチャージも済んでいる。
ここまで来れば、もう消耗なんてそこまで気にしなくともいいだろう。
「振り来る火の粉ではないけど……そろそろ、目障りだからねっ!」
【充填】を開始。
HPがゆっくりと減るのと同時に、私の身体が淡く光り始める。
その瞬間、向こう側にも動きがあった。
私を取り囲むようにしていたゴブリンたちが、にわかにざわめき始める。
そして、少しずつ後ずさるようにして距離を取り始めた。
盾持ちのゴブリンが、きっちりと前を固める形で、各集団の殿を務めている。
【聖魔砲】の警戒だろうね。
けど、遅いよ。
「後ろに尾かれるの、1番イヤかも」
【発射】
ひと数人くらい余裕で飲み込んでしまえるほどの光線が、背を向いた私から放たれる。
咄嗟に盾を構えるゴブリン。杖持ちのゴブリンが、何かを唱えている。
けれど、そんな物じゃ止まらないんだ。
私のHPは、17000を超えている。
10秒15秒もあれば……
「……はい。おしまい」
光の通った後には、何も残されていなかった。
盾ごと、なにかの防御魔法ごと、部隊をまとめて消し飛ばすことに成功したのだろう。
『ひぃ』
『淒女ビームキター!』
『相変わらずえっぐい火力』
『流石に防御ごと部隊消し飛ばすのは悪魔かもしれん』
『逃げなかった時点でお前たちの負けだよ()』
『蜘蛛の子を散らすように逃げ始めて草』
『そりゃそうだろw』
念のため、初級ポーションを服用。HPを全快させておく。
そしてそのまま再充填。
さて、見渡すと視聴者さんの言う通り。
周りを固めるようにしていたゴブリンたちは、我先にと逃げ始めている。
其の背中を撃つのは簡単だけど……流石になぁ。
そう、思った瞬間だった。
「おわっと」
強烈な悪寒を感じ、前に向き直りながらもバックステップ。
その目の前に、ピシャーンと雷が落ちた。
晴れた先に居たのは、四つのシルエット。
大盾、刀、大杖、スティック。
四者四様の武器を構えた彼らの、覚悟を決めたような目がこちらを射抜く。
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名前:オーガ
LV:46
状態:平常
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再戦の、刻だ。
半年ぶりになってしまったのにも関わらず、温かいコメント本当にありがとうございました。
その言葉と、まさかの1年振りの日刊ランキング(5位)という結果が、私に力を与えてくれました。




