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お部屋からのペア配信

前回


聖女の新しい技能を修得した!



 お風呂まで済ませてしまって、時計を見る。

 時刻は19時50分。もうそろそろ……


 ──ピンポーンと、チャイムが鳴った。

 モニターから来客を確認して、迎えに行く。


「はいはーい」


「よー。きたで」


「待ってたよ〜。準備できてるから、あがって」


「ほーい。邪魔すんでー」


 カナを迎え入れたら、真っ直ぐに自室へ。

 デスクの前に椅子を置いて、二人並んで座った。


「なんか、おもろいなぁ」


「んー?」


 不意のしみじみとした呟きに、顔を向ける。


「いやさ、これまでも、ウチの配信する時にちょろっと手伝ってくれる時とかはあったやん?」


「そこまで大したことはしてないけどねー」


 精々が、マルチプレイのゲームでたまに遊ぶくらい。

 あとは、実写で動画を作る時にちょっと手を貸したり、裏方をしたりね。


「まあ、言いたいことはわかるよ」


「せやろ?

 こうしてユキのチャンネルから配信することになるとは……感慨深いものがあるで」


 これからやろうとしているのは、リアルからの配信。

 と言っても、特別なことをしようとしているわけでは無い。


 あくまで、VRではなくこちらから配信するというだけ。

 自分たちの姿も、映らない。


 代わりに、立ち絵と呼ばれる、私たちをイメージした3Dのイラストを画面に乗せておくんだ。

 こちらの動きに合わせてある程度イラストも動いてくれるため、視聴者さんからすればそこまで臨場感とかを失わずに私たちの話を聞いている気分になれるんだとか。


 一昔前の配信は、これが主流。

 その更に前。3Dがまだまだ普及しきってなかったころは、1枚絵をアバター代わりに置いておくのが基本だった……というのは、カナから聞いた話。


 おっと、話がそれたね。


「ふふ。私も、こんなに熱中するとは思わなかったな」


「ウチは最初から、ユキなら成功するってわかっとったけどなー」


「奏はいつもそう言って誘ってくれてたもんね」


「せやろー? ウチの目に狂いなかったっちゅーわけや」


 二人で笑いあいながら、配信の準備を進める。

 うん。時刻も良い感じだね。


「じゃ、配信始めるよ~」


 カナが頷いたのを確認して、配信ソフトから放送を開始する。

 隣から漂う雰囲気が少しだけ変わったことに、小さく笑みを浮かべた。


「は~い。今日はリアルからの配信ですよーっと」


『わこ』

『わこつ』

『がおつー』

『がおつー』

『がおー』

『待ってた』


「ふふ。みんな早速ありがとう。来てくれて嬉しいよ。

 今回は……今回も? ゲストに来てもらっているよ!」


「おおきに。カナやで~。ユキの隣からお送り中」


『リアル隣とかマ?』

『この二人は家となり同士って公表してるよ』

『リアル幼馴染!? 実在したのか』


「なんかこう、ウチの配信じゃもう見られんようなコメントにちょい和むわぁ」


「どういうこと?」


「ウチのリスナーにユキんこと知らん奴はおらんと言っても過言やない」


「ねえいつも思ってるけど、どこまで喋ってるの?」


「ごはんよく一緒に食べるとか、家族ぐるみの付き合いとか諸々……

 割とユキのことはなんでも話してる気がするな」


「プライバシーの侵害で訴えても許されるんじゃない?」


「はっはっはー」


「おいこら笑ってごまかすな」


『掛け合いが熟練なんよ』

『実際、家族みたいな感じで喋ってるよね』

『阿吽の呼吸』

『ただの夫婦』

『てえてえ』

『カナユキてえてえ』


「……もう。これじゃいつまで経っても始まんないよ」


「せやなー。んで? 今回はどういう用件なん?」


「自由かっ!

 ……こほん。えーっと、今回は、アプデ情報を先行配信していくよ~~!!」


「おーー」


『おお!』

『待ってた』

『そんな気はしてた』

『今回もやるのか』

『忘れたころに公認っぽさを出していくスタイル』

『これは公認凄女』


「凄女関係ないよね!?」


「まあでも、凄女だったからこそ公認にまでなったとも言えるような」


『www』

『確かにww』

『そのへんで話題性爆発したもんな』

『凄女だから公認になるって言葉のパワーやばすぎる』

『ワイも凄女目指します』

『俺も』

『私も』


「目指さなくていいから! カナも変なこと言わないのっ!」


 あっはっはと高笑いする親友の脇腹を、かるく小突く。

 まったくもう。みんなして本当に自由なんだから。


「ほら。じゃあ早速発表していくよ。まずは一番大きなものから。

 明日のアップデートから、ギルド機能が実装されます!!」


「いよいよかぁ。先週も言っとったやつやろ?」


「そうだね。前回公開されていた情報もあわせて。画面に表示させちゃうよ!」


 カチカチと操作して、ウィンドウにギルド関連の情報を表示する。

 ギルド内部でできる内容とかは、先週公開された情報ととくに変わりはない。


「新しいモノで言えば……ギルドの設立条件とかかな?」


「ほー。三人いてかつ設定できる本拠地があれば、ギルドを開けるってわけか」


「そうみたいだね。本拠地……ギルドホームにできる建物は、街にたくさんあるみたいだよ」


『あー』

『割と緩いね』

『簡単に設立できそう』

『難しすぎても誰も立てられんくなるしな』

『そっか。謎に大きめの空き家が多いと思ったらそういうことね』

『あのへんから家買ってくれってわけか』

『先立つものが必要ですねぇ……』

『こじんまりとしたものを買うか、野望を胸にデカい家を買うかも自由と』

『そのうち空き地から自分で建てる人とかでてきそう』

『さすがにそれはww』


「いや、どうやろうな。案外その気になればなんでもできるようになってるらしいから。

 一から自分たち好みの家にするくらい普通にやるんちゃうか」


「本業大工さんとか、そうじゃなくとも町の人々に教わるとかありそうだよね」


 ステータスの暴力である程度作業はできるだろうし、もしかしたら大工用の技能とかもしっかりあるかもしれない。

 ああ、自分たちで作らずとも、アイデアだけ持って町の方に依頼するとかなら余裕でありそうじゃん。

 

「予告されてた訓練施設とかはどうなんだろう。それも大工作業とか依頼がいるのかな」


「さすがにその辺はシステムちゃうか~?

 ま、金はとられるやろうけどな」


「そうだね~。

 さて、今日はもう一つ大きな情報があるよ」


 ほう? と反応してくれるカナに笑みを浮かべながら、画面を操作。

 二つ目に用意していたものに切り替える。


「はい! 次の日曜日、13~15時で、ついにワールドクエスト絡みでイベントがあるみたいだよ!」


「お~! ワールドというとアレか。ゴブリン関連のやつ」


「そう。ゴブリンたちの大侵攻イベントが行われるんだって。

 サーバー全体で協力して、設定された戦略目標の達成を目指すみたい」


「面白そうやん。超大規模レイドってことか」


『お~~!!』

『激アツじゃん』

『MMOっぽさがいいよね』

『対戦の次は協力型か』

『プレイヤー側の戦略兵器が刺さりそうだなぁ』

『この場にすでに二人いる模様』

『……魔王様敵に回ったりしないよな?』

『はははそんなわけ』


「はっはっは。ええ着眼点やん。

 魔王……この言葉が示す意味ってなんやろうなぁ?」


「怖いこと言わないでもらっていい!?」


「あはは! そもそも魔王とかアンタらが勝手に言ってるだけでしょーが!

 まあでも……いつも好き勝手言うてくるモンにお灸を据えるには、いい機会かもなぁ?」


『ひぃ』

『シャレにならんww』

『すみませんでした』

『お灸(大火災)』

『もはや火葬されてるんよ』


「……ちなみに本当のところは?」


「内緒って言っとこうか。そのほうがオモロイやろ?」


「ひえ~怖いこと言うねぇ」


「ともかく。このイベントをきっかけに、さっそくいくつかの大手と言われるようになるギルドはできそうやね」


『たしかに』

『ドレンとかが呼びかけたら集まりそう』

『疑似的な軍みたいになるもんな。実際強い』

『今後ギルド対抗とかがあること見据えると、今のうちに大手に入りたい、戦力高いギルドを作りたいって人は多そう』

『魔王様はギルドつくらんの?』

『わかる』


「ウチか~? ウチは魔王軍でも設立しようかなぁ。

 魔物の王として街侵略。楽しそうやない?」


「カナ???」


「あっはっは。じょーだんじょーだん。

 まあ、魔王軍ってギルドおもろそうやなーって思ったのは事実やけど」


「カナなら名前負けしない感じはあるもんねぇ」


『たしかにww』

『だれよりも魔王っぽいもんな』

『フリージアたんとか幹部に欲しい』

『炎獄の魔王、氷結の秘書』

『魔王様の最終兵器、凄女様』

『勇者はドレン?』

『あいつはどっちかというと勇者パーティの戦士だろ』

『全ワールド巻き込み型の聖魔決戦ある??』


「はいはい。妄想はほどほどにな~。

 この場におらん人について触れすぎるのはようないし」


「そうだね~。まあ、どう転んでも楽しそうってだけ言っておこうかな」


 実際問題、カナが人類の敵側に回っても面白そうだと思うんだよね。

 その場合、私は聖女とかいう大層な職業だし人側の希望的なポジションを取ることになるんだろうか。


「……かなり話が逸れたね。

 ひとまず、私たちは日曜の13時から大規模イベントがあるってことだけ認識してればよさそうだよ」


「せやな。おそらくやけど、その少し前くらいから小競り合いは増えるんちゃうか?

 ゴブリン狩り、精を出さんといかんかもな」


「そうだね~! しっかり準備して、日曜に備えよ! ギルドの件もね!」


「ほな、今日はそんなところか?」


「うん! 伝えることは伝え終わったし、ここまでかな~」


『もうおわるんか』

『告知配信だもんな』

『もうちょっと何かやらないの?』

『カナユキでやってほしい』


 締めようかなとも思ったんだけど、もうちょっと配信してほしいってコメントもちらほら。

 カナに目を向けると、頷きが返ってきた。


「ん。じゃあ、ここで一旦放送は止めるね!

 それから、五分くらい挟んでカナと緩くゲームする配信でもするよ」


「久々にVRじゃない二人用のなんかやるかぁ」


『神』

『たすかる』

『カナユキ供給ありがてぇ』

『待ってる』

『神じゃん』

『ボドゲやってほしい』


「ボドゲかぁ。シンプルにリバーシとか久々にやる?」


「ええんちゃう? 見てる人もわかりやすいし。

 ボッコボコにしたるわ!」


「ふふ。

 じゃあ、一旦配信はここまでかな~。ありがとうございました!」


「おおきに~~」


 お疲れ様という旨のコメントがたくさん流れるのを確認しながら、配信を切る。

 まあ、軽く休憩したらすぐに二人でまた始めるんだけどね。


 でも、リバーシかぁ。いつぶりかな。

 単純だけど奥が深いんだよね。あのゲーム。

 小さいころ、寝る前に毎日のように対戦していたころが懐かしい。


 さーて。今日は久々にカナをぼこぼこにしちゃうぞ~!!





私事で恐縮ですが、一つ、皆様にご報告がございます。

普段のあとがきは読み飛ばしていただいて全く構わないのですが、今回ばかりはどうかお付き合いください。




【ご報告】

この度、「『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法」の書籍化が決定いたしました。

幼少期よりの夢でもあった、『作家』という存在。その端くれに、片時ではございますが私もなることができるみたいです。

ここまで来られたのは、ひとえに応援してくださった皆々様のお陰。感謝の言葉もございません。

詳しいことはまだ伏せさせていただきますが、いつか書店に並んでいるのをご覧になった際には、そちらのほうも応援していただけますと幸いです。

どうぞ今後とも、当作品をよろしくお願いいたします。


こまるん


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2023年1月20日に、第1巻発売されます!➡︎告知https://twitter.com/komaru0412/status/1584742818631012352?t=No8qGuhtVt37w2Jk0SwIKg&s=19
― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化おめでとう御座います。更新おつかれです。書籍楽しみに待ってます(^^)。
[一言] どっかの顔芸ライダーも〝諦めなければ、夢は叶う〟って言ってたし、夢が叶って良かったじゃん おめでとー♪
[良い点] おめでとう、本当におめでとうございます
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