げんきいっぱい
満を持して、ボスがいると思われる空間に乗り込んだ三人。
そこで待ち受けていたのは、神話上の存在だった。
「さて、どうしたもんか」
トウカちゃんの見つけた、新たなダンジョン。
そこの一番奥での戦闘に完膚なきまでに敗れた私たちは、とりあえずその場で反省会? を開いていた。
「キマイラかぁ。ちょっと予想以上のものが出てきたねぇ」
「猪の王やらスライムやら巨大石像やら。
いかにもファンタジーって感じの緩いグラフィックなボスが続いとったからなぁ」
「でもでも、ああいうすっごいのって、RPGっぽさがありますよねっ」
「終盤ならな!!」
「まぁ、レベル75だったしね。文字通り次元が違うって感じだった」
私のレベルが49なことを考えると、かなり不相応な敵だったと言えるだろう。
今のレベルキャップでさえ、60だっけ。並びたつには、相当遠い話だね。
「でもでも、良いところも沢山ありましたよね!」
「せやね。まず開幕のユキがファインプレーやったな」
「あれはね~。咄嗟だったよねぇ」
始まった瞬間に感じた、強烈な殺気。
予感に任せて即座に対応できたのは、たしかに僥倖だったと思う。
もし対応遅れていたら、開幕ふたりやられちゃっていただろうからね。
「トウカの一撃もよかったな。かなり効いてたんちゃうか?」
「あ、わかる~! なんならアレで倒せちゃうんじゃないかって思った!」
光り輝くハンマーによる、衝撃波。
あれは本当にかっこよかったし、威力も物凄かった。
てっきり至近距離しか攻撃できないと思っていたから、条件次第とはいえ実戦レベルの手札がしっかりあるっていうのも良いよね!
「えへへー。ただ、準備にすっごく時間がかかっちゃうんですよね。
どっかーんも真っ直ぐにしか飛びませんし!」
「その辺は、いかに他がサポートできるかやろうな。
ユキがいる分、一定時間耐えるだけなら相当楽にはなるが」
それにしても。とカナがこちらに向き直る。
「守護結界、味方として見ると相当便利やね。
身体を覆う薄い膜が、ダメージを吸ってくれるって感じか。
こっちの行動は何一つ阻害されんし、ただ便利な安心材料ってところやな」
「そうそう。最初は、結界って言うからにはもっと派手なのかと思ってたんだけど。
攻撃を受けるってよりは、ダメージを無かったことにしているって感覚が近いかも」
自分や味方の行動は阻害せず、それでいてきっちり近くの仲間は守ってくれる。とても便利。
ひとつ欠点をあげるとするならば、ノックバックとかは防げないことかな。
その場から引き離されちゃった仲間は、そこから護るのが非常にむずかしくなる。
「もうちょっとこう、移動性能が欲しいなぁ」
「そういえばユキ、【カバー】と【カバームーブ】取ってへんやろ?」
「え。あー……!」
【カバー】。自身の周囲の味方が攻撃を受ける瞬間に、発動できるスキル。
その攻撃によるダメージを、代わりに引き受ける……だったかな。
【カバームーブ】は、その派生系。
カバーと同時に発動することで、20m以内の護りたい対象の元へワープ。ダメージを肩代わりできる。
非常に便利な分、【カバー】は15秒、【カバームーブ】は45秒と長めの再使用時間があるけどね。
「すっかり、忘れてた」
「【カバームーブ】の方は、味方と引き離された時とかにも有用やからな。取っといた方がええんちゃうか?」
「そうだね。アジーンの道場だっけ。覚えとく」
ほんっとに最初期の方に、1度だけ触れたと思うけれど。
この世界では、ギルドで望めば戦闘指導を受けることが出来る。
そこで得られる技能もあるんだよね。
【カバー】と【カバームーブ】は非常に有用だから、重戦士やるなら確実にとるべき……とかいう話だったはず。
「わたしも、戦い方おしえてもらいましたよー!
あそこの床、思いっきりぶんぶんしても傷一つ付かないんですよね……!!」
「ほぉ。それはいっぺん耐久テストしてみたいもんやな」
「待て待て。ほんとに魔王認定されて追い出されるよ」
「はっはっは! それはそれでおもろいやんか」
「やめんかっ!」
朗らかに笑ってみせる、カナ。
これはアレだね。いつかほんとにやらかす気がする。
親友が街から指名手配を受けるなんて、止めて欲しいんだけどなぁ!
でも、本当にそんなことがありうるのかというのはさておき。
実際に指名手配とかされたらどうなるんだろ。
街に入れなくなったり、入れても衛兵に追いかけられたりするのかな?
追い出されるといえば、私の称号も大概怖くなってきたよね。
【悪魔】と、あと【闇に魅入られし者】とかそんなんだっけ。
めっちゃ堕ちてそうなんだけど。大丈夫??
「称号といえば。この前、珍しいもの取れましたよ!」
「ほう?」
「おめでとう! どんなのか聞いてもいい?」
「もちろんっ。えっと、これです!」
トウカちゃんが指をちょいちょいと動かすと、パッとウィンドウが可視化される。
私たちはその両脇から覗き込むようにして、覗き込んだ。
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称号:げんきいっぱい
効果:一部のNPC好感度に補正 光属性の威力が微上昇。 まれに周囲の味方に【鼓舞】効果
説明:かの者は、いつでもどこでも元気いっぱい。その快活な姿は、見る物全てに活力を与える。
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状態:鼓舞
効果:善性状態変化の1つ。効果中、精神系状態異常を無効化する。時間経過で解除。
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「すごーい! トウカちゃんにピッタリ!」
「えへへーっ」
「これ、効果も強いな。安定しないとはいえ、状態異常の無効化までできるんか。
…………ん?」
感心したような素振りを見せていた、カナ。
そんな彼女が、不意に何かを考え付いたかのようにこちらを向いた。
ニヤリとしてみせる彼女の様子に、眉をひそめる。
「……どうしたの?」
「いや、これ凄女サマよりよっぽど聖女っぽいなぁと」
「っ! ばかーっ!!」
トウカちゃん、ハンマー貸して。一回この人ぶっ飛ばすから。
え、私じゃ持てない? 知っとるわ!!
【ユキが百人いても、トウカちゃんのハンマーは持てません】
アルファポリス様にて毎日更新中の、当作品微修正版もよかったらよろしくお願いします。
一年前の投稿部分とかなので、懐かしさに浸れるかもしれない。
そうそう!六月頭で一周年を迎えました。
今後ともコツコツ進めていきますのでっ




